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オトンとオカンと
君はもう大人になった


現状を把握出来ない。

したくない。



「……佐吉…」

「…情けない声をあげるな」

なんでこの状況で私は君に慰められてるんですかね、佐吉の方がずっとずっと痛そうなのに。
塞ぎ込んでいる私に手を伸ばそうとして、触れられないのをもどかしく思うように佐吉は目を細めた。


「……何故、今なのだろうな」

「…佐吉は何かあれですか、悪い奴に捕まったんですか…」

「……悪い奴、か」


意味有り気に呟いた佐吉は、私と牢を見比べてから…目を瞑った。あ、これは諦められた。

「佐吉ダメですよ!
また『夕飯何食べたい?』って聞いたら『貴様に全て任せる』とかそんな大暴投しないで下さい…!」

「…煩い」


そう呟いた佐吉はなんだか眠そうに見える。
あれ、この子は未だに寝不足なのだろうか……


「寝ますか、佐吉」

「…構うな」

「しかしですね、他にやる事も見当たらないものですから…」

暗いし何もない牢。
暇で仕方ない。


「…鵺子」

ため息のように名前を呼ばれた。彼は疲れ果てた様子で壁に寄りかかり、目を瞑った。


「……来い」

「はいはい」


隣に腰掛けて、私も目をつぶる。



あぁ、なんだか安心した。



「君は、立派な大人になったんですね…」

「……」


答えないけれど、多分まだ聞こえている。


「あの頃はよく、竹千代とぶつかってましたけれど、今も彼は…」

「…奴なら壮健だ」


そうか、まだ仲良しのままなんだと私はなんだか嬉しくなり、小さな彼らの話をポツポツと話した。

佐吉は無言ではあったけれど、聞いている姿勢でたまに相槌をうってくれた。


「…しかし、なんでまたこんな事に…」

本当にひどい有り様だ。
戦国の世とは聞いていたけれど、こんな…


「…私は、敗軍の将だからな」

「………え」


まるで、


波打つように周りの音が遠ざかって、佐吉の酷く疲れた声しか聞こえなくなる。


「私は、もうじき処刑される」

「……なに、を」


私が唖然とするのを、おかしそうに彼は見ている。

「私は負けた、ならばこの首は勝者に……徳川家康、いや、貴様にわかるように言えば竹千代に、か。差し出さなくてはならない」

「…竹千代?」




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あきゅろす。
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