オトンとオカンと
要らぬ噂
小十郎は急いでいた。
やっと雑用から解放されて、徒歩で鵺子の部屋に向かっているのだが、あの忍と二人っきりにさせるのは何故か腹が立つ。
しかし、商店街を抜けていると季節の様々な野菜に目を奪わて気が付くと、両手にネギやら芋やらの袋をぶら下げてしまっていた。
「…我ながら良い買い物だ…!」
あぁ、政宗様にお会いしたい。これほどにいい食材を見れば、きっと政宗様もお喜びになる。もちろん、これに負けない野菜を育てる事が目標だが。
「…叶わぬ願い、か」
ふう、とため息をついて眉をひそめると、近くに居た主婦が青ざめて逃げ出し手を引かれた子供が「あのおじちゃん、ごくどーなのー」と指をさしてきた。
そんなに強面だろうか。
***
鵺子のマンションにたどり着くと、何やら主婦たちが集まって井戸端会議している。
ふと、目があったので会釈すると。
鯉池に餌を巻いたように、群がってきた。
「ねぇ、ちょっとアンタ鵺子ちゃん所によく出入りしてるわよね?どういう事なの!」
急過ぎて、なんだか分からないがとにかく聞き返す、「どういう事、とは」すると獲物を取り合うカラスのように、主婦たちは喚き出した。
「子供よ!子供!しかも二人もありゃ五歳くらいかね?」
「隠さずに言ってくれたら良かったのにねぇー!でも誰の子よ?」
「馬鹿ね、誰の子か分かってたら堂々と言うじゃない!」
「…ま、そういう事?!怖いわぁ最近の若い人はどうなってるのかしら!」
あぁ、
「黙りやがれ、」
ぴた、と危険を察知したように言葉を止める主婦たちを小十郎は睨みつけた。
「鵺子はそんな奴じゃねぇ、確証も無ぇくせに下らねえ噂立たせるな」
「け、けど子供が…!」
関係ない奴が、鵺子を悪くいうのは許せない。しかし自分もこの目で見た訳ではない為下手な事は言えないのだ。
「…心配されるような事は起こさせませぬ、今は騒ぎ立てるような真似は控えて頂きたい」
そう言い放って、小十郎はその場を去った。冷静に対応したように見せて、本音は
「誰の子供だ…っ!」
と、怒り心頭だったのは言うまでもない。
それが果たして、恋情の類かは本人も知らないのだが。
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