オトンとオカンと
うたた寝禁止(※死ネタ)
―――轟々と、雷雲が空を埋め尽くし体は自然と重くなる。
硝煙も血も、地に塞ぎ込んで起き上がられない。
辺りに散らばっている甲冑は、味方のものばかり。何度か見た光景だ、なぜなら此の世とは戦国乱世で、俺は真田に雇われた忍だから。
けれど、これで。
これで最後。
指先から感覚が無くなって、訳もなく体は寒くなって震えた。天地がひっくり返る、それを何とかこらえながら、ひたすら『旦那』を探す。
「何処だよ…旦那…」
別れた時、俺は敵軍の囮になり旦那の影武者を演じ、何とか生き延びた。だのに、旦那の小隊が奇襲を受けたと聞いた。
そして、
旦那は、
「……ぐ、」
血が足りない。ざぁざぁと耳障りな大雨に打たれながら、なんとか体を引きずった。
「旦那ァ…?」
掠れた声が、自分の喉から出たが直ぐに雨音に吸い込まれた。
届かない、
見つからない、
けれど、うちの大将が死ぬわけがないから。迎えに行ってやらないと、まだやる事はある。
信州を守り、育んで。天下を統一して、兵を鍛えて、また春が来るから、旦那は花見団子をめいっぱい食べるんだろう。
あぁ、給料上がらないかな…
ぼんやりと考えて、思わず笑ってしまった。
「…たいがいに馬鹿だよなぁ…俺様も、さ…」
こんな絶望的な状況で、未だ一人の男を信じている。忍びならこんな事は有り得ない。忍びなら、さっさと逃げてる。
でも、微塵もそんな気は起きなかった。
「……?」
そして俺は、見つけてしまうのだ。
盾無しの鎧と、朱の槍を。
「…だん…な…」
どこぞの兵が、首級を持ち帰ろうと刀を振り上げていた。それを、手裏剣を投げ全力で阻止する。
ぎゃあ、と鮮血を上げて。
その男は倒れたが、そんな事はどうでもいい。
「………、」
なぁ、どうしちゃったんだよ旦那。
顔色ヤバすぎだよ、早く、早く連れて帰らないと…
死んじまう、
「死んじまうよな、旦那…」
冷たい、やけに重い体を抱きかかえて。俺は立ち上がろうと、
「この、死に損ないの忍びがあぁああっ!!!」
ずん、と。
体に何かが突き刺さって。
俺様の血が、旦那の土色の頬を汚した―――…
◇◆◇◆◇
「…大丈夫か、佐助?」
「っ!……旦那、旦那っ!」
小さな旦那が、座ったまま寝ていたらしい俺様を見上げていた。手を伸ばして、ぎゅうと抱きしめると。
「痛いぞ佐助!」
「ごめん…ごめんな…」
「…佐助?」
あたたかい。
呼吸の音。
俺様を払うように、力の籠もる手に泣き出しそうになった。
「…は、母上が…しんかんせんの時間とおっしゃっていた…っ」
「あ、もうそんな時間か」
この前、商店街で当たった旅行は京都だった。悪くない、けれど。
「上洛じゃ〜…ってね」
「…?」
なんか複雑な気分だわ、と佐助は思った。
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