オトンとオカンと
そうだ〇〇に行こう
そんな、殺伐とした喫茶店の空気をぶち壊すようにドアのベルがからんと鳴った。
ちら、と確認すると佐助が何やら固い表情でやけに大きなプラカード(TVでよく見る賞金何万とか書いてあるやつ)を両手で掲げた。
「右目の旦那…ごめん、旅行当たった…」
申し訳なさそうに、ど派手な活字で有名な観光地の名前が書いてあるプラカードを小脇に抱え直した佐助の後ろから、大量のタワシが入ったビニール袋を持つ梵天丸、醤油のボトルを数本持った弁丸と、片手で楽々と米の袋を持つ竹千代が入店してきたので―――「すいません、お会計いいですかー」
とりあえず、外にでた。
◇◆◇◆◇
コツコツ貯めた抽選券が賞品に変わってしまった事に、小十郎は少し落ち込んでいるようだった。
外で食べるタイプの、とても安いコロッケ(慶次おすすめ)を頬張りながら佐助が説明をする。
「や、暇だったからさ〜。今回商店街来たのだってその為っしょ?それでまぁ、チビ達にも引かせてたらさ……こうなった」
「……、言いてぇ事はそれだけか猿飛ェ…」
「いやいやいやいや!!?今回は抽選だろ!運次第だって!」
小十郎的には、米がもっと当たって欲しいとこだったろうが確かに運次第だ。仕方ない。
して、
「旅行…どうする?」
「え、行くっしょ」
「行かねえ」
幼なじみ達は、バラバラの回答をしてお互いに顔を見合わせる。
「泊まったりするなら、単位に響くだろうが」
「週末に出かけるなら大丈夫だろ、バイトのシフトもまだ出してない事だし」
「いや〜、いいねぇ!観光に温泉に湯煙殺人事件!」
「…慶次、それは…違う…!二時間ドラマか!」
「母上!犯人は現場に戻ってきた、内縁の妻の娘でござる!」
「Ah?なに言ってんだ弁丸?犯人は崖に向かった奴だ、yousee?」
「最近、色々な刑事が居るな!弁当を食べたり、もはや何課か覚えきれないぞ」
「……解せぬ」
あわわわ、チビ達はいつの間に昼間の二時間ドラマを見てたんだ。たまに入浴シーンとかあるから気を付けな…きゃ、あれ?
「慶次さん、ついてくるんですか?」
ごく普通に話に混じっていたから疑問に思わなかったが…。
「自腹でも行くよ」
目が…座ってる…!
無心でコロッケ頬張ってる…!
「…なーんか、行く流れっぽいよ旦那?」
「……、仕方ねぇな」
かくして、某有名な観光地に行く事が決まったのであった…!
帰り道。
小十郎はひとり、夕暮れを見上げた。
「……いつかは知る、か。」
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