オトンとオカンと 雲行きが怪しい 片倉小十郎はメール画面を素早く開き、慣れた手付きて返信をうつ。 『婆沙羅商店街、抽選会場にて待つ』 躊躇いもなく、未だ見た事もない『鵺子に告白した不届き者』にメールを返信した小十郎は佐助に目配せした。 何かに気付いたのか、佐助は苦笑いして鵺子のそばに行ってどこか適当な店へと誘導する。 小十郎の耳にだけ、届くように佐助の 『頼むから警察沙汰にはしないでよ』 という呟きが飛んで来たが、小十郎は眉間にシワを寄せて 『善処はしてやる』 と返事をして颯爽と抽選会場へと向かった。 不敵な笑みを浮かべて、肩で風切って歩く小十郎を。 「ママー!あの人怖いー!」 「こらっ、見ちゃいけませんっ」 通行人達は脇に逸れ、商店街に静けさが訪れたのであった。 一方その頃、『鵺子に告白した不届き者』の前田慶次はというと。 ◇◆◇◆◇ 「うわぁあ!返事やっと来たよ…!」 心底幸せそうに、携帯画面を見つめる慶次は高揚感に満ち溢れながらメールを開いて、固まった。 果たし状のような文面を、何度も読み直す。 「え、婆沙羅商店街って…此処じゃないか!うわぁ、これはやっぱり愛ってやつかい!?」 そう、慶次は商店街に居た。 まさか自分のメール相手が戦国時代の見知り合いとも気付かずに、彼は返事をした。 『抽選会場だね?今すぐ行くよー!』 ◇◆◇◆◇ 「ハッ、好都合だな…」 抽選会と、鵺子につく悪い虫を同時に片付ける事が出来る。 ニタァ、と笑みがこぼれるとすれ違う人々が心なしか距離をとったり泣きそうな表情をする事に小十郎は気づいていない。 「…で、鵺子?どうしても片倉の旦那の後つけるのかー?」 ひょこ、と小十郎が過ぎ去った道に頭を出す佐助は、歩き疲れたらしい幸村をおんぶしながら鵺子に尋ねた。 無表情な彼女は、静かにコクンと頷いた。 「小十郎が今から会いに行く相手は…もしかしたら、小十郎の彼女かもしれない…!」 「や、絶対違うと思うんだけど…」 見当違いな鵺子の予想を否定しつつ、なんだかんだ佐助も気になっていた。 幸い気付かれてないみたいだし、もしも本当に『小十郎の彼女』が居るのなら… 「そしたら、もう遠慮も要らないっしょー…」 「うん?何か言ったか佐助?」 「いやいや!こっちの話ー!…ほんじゃま、行くかぁチビっ子?」 ぞろぞろと、子供も引き連れて。佐助と鵺子もこれから起きる惨劇の見物人となるとは知らず、商店街を行くのであった。 ◇◆◇◆◇ 「へっくしっ!ありゃ、噂かな?」 急に寒気を感じた慶次は、抽選会場を見渡して首を傾げる。 と、携帯が振動するので画面を見ると。 『後ろに居る』 [*前へ][次へ#] [戻る] |