オトンとオカンと
人の恋路を邪魔する奴ら
ひときしり、鵺子を泣かせてやると疲れたのか本当に寝てしまった。やれやれ、と肩をすくめて佐助が鵺子を背負って廊下を歩く。
「…猿飛、」
「あれ、旦那ぁ?おかえり〜」
玄関に立つ小十郎を確認して、佐助は薄っぺらい笑みを浮かべたが、対照的に小十郎は渋い顔をしていた。
「なにか、あったか」
「ん〜、まぁちょーっと…」
「詳しく話せ」
保護者が板に着いた小十郎が、廊下を歩み寄って来ながらそう促した。
「…旦那ってさぁ、独占欲丸出しなんだな?」
「何の話だ?」
「無自覚が一番質悪いよなー…」
なんて、大きな声じゃ言えない言えない。
◇◇◇◇◇
かくかくしかじか。
小十郎の迫力に押されて、佐助は説明をした。
実はこの光景はよくある事で、幼なじみ達はこうしてよく鵺子を見守って来たわけである。
渋い顔のまま、小十郎が腕を組む。
「相変わらず、感情起伏が激しいなあいつは…」
「鵺子は普段無表情だからなぁ…。ってか、旦那今日遅かったじゃない?なになに、良い人でも出来ちゃった?!」
「……あ゛ぁ?今はそんな奴必要ないだろう。鵺子の事もあるしな……、それと前田の風来坊みたいな物言いは止めねぇか」
ばっさりと、今は必要ないと言う割には。
鵺子の事を優先する小十郎がむしろ清々しくて思わずにやけてしまった。
しかし、その『親愛』が『恋愛』に変わってしまったら。
「うっわ、なんか勝ち目ない気がしてきた…!」
「……さっきから、何の話をしていやがる?…まぁいい、実は明日から商店街でイベントをやるから、町内会長と話し合って来たんだが…」
「えっ、謎の人脈過ぎてびっくりだけどいいんじゃない?最近近くのスーパーに客取られてたし?」
一気に色気のない話題になってしまったが、これもよくある事なのだ。
ここで、ニヤリと小十郎が(大人でも泣いて逃げ出すような笑みで)笑った。
「俺の進言で二等に米、三等に醤油とみりん、四等にトイレットペーパーという(家庭的に)完璧な布陣にして来た…!」
「え、家電品とかじゃな」
「まぁ流石に、一等の旅行と特賞の商品券は変えられなかったがな…!安心しろ猿飛、すでに抽選券は前々から貯めてある…!!」
財布の中から厚みのあるチケットを見せられて、佐助は遠い目をしながら「わーすごいー流石は旦那ー」と棒読みで手を叩いたのであった。
◇◇◇◇◇
「へっくし、」
某24時間営業のファーストフード店で。ひとりポテトを食べていた『前田慶次』がくしゃみをした。
ケータイを開くと『新着メールはありません』という画面のままで、彼は悲しげに眉をひそめて、またケータイを閉じた。
「…こんなに簡単に、文は出せるってのに……返って来ないのってのは、辛いなぁ…」
便りがないのが、何よりの便りだなんて言うけれど。
このご時世にそれはないんじゃないかい。
ため息をつきながら、懐をあさる慶次は、一枚の紙を取り出した。
「…明日か…、暇つぶしに商店街に行くのもいいよな」
あそこのコロッケうまかったし。
◇◇◇◇◇
まさかそれが、
『二人』を出会わせる事になるなんて。
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