オトンとオカンと
ありがとうを君に
何を、と尋ねる前に佐吉は意味有りげに口端を持ち上げて私を見たのだった。
「礼を言いたかっただけだ」
「私、何かしましたか?」
そう返すと、話を聞いていたらしいチビたちが一斉に声を上げた。
「母上たちが、幼かった某を世話して下さった事を忘れてはおりませぬ!」
「貴女は儂をぞんざいに扱わなかった。儂を人として尊重してくれた事が嬉しかった…」
「…欲しかった言葉を、アンタがくれた。それだけで俺は、」
一斉に喋っていた彼らが、急に黙って私を凝視した。一体なんだろうと思っていると、隣から小十郎の手が伸びてきて私を向き直させた。
やれやれ、というように笑う小十郎が「…泣くな」と言って私の涙を拭っていく。佐助も私の頭に手を伸ばして、ぽんぽんと撫でて笑う。
「よしよし泣かないのっ、…嬉しかったんだな、鵺子」
泣いていた?
私が?
半信半疑で自らの頬に手をやると、なるほどどうして涙で指先が濡れた。チビたちがまた一斉に声を上げる。
「貴様ら、何を言った…っ!」
「母上!どこか痛むのでございまするかっ!」
「何も言って無い、いや言ったが…忠勝っ、忠勝ぅう!どうにかしてくれっ、」
「しゃらぁああっぷ!」
梵天丸が、何故か英語で「黙れ」と叫んで周りを驚かせた。え、なんで、英語。
「ハッ、少しはcoolになったかと思ったが…やっぱりお前らもガキのままだな」
coolの発音が良すぎだよ梵天丸。どこで習ったやら。教育テレビか。国際化か。反抗期なのか。その内宅配のピザを空中に投げたりしないか不安だ。
そんな風にもんもん悩んでいた私を置いて、話は円滑に進んで行くようだった。
「…んじゃ、自分の事はもう出来るみたいだな旦那達?」
「うむ、武人たるもの己が面倒くらい見れねばな!」
「…家事くらい、やれる」
「Ah――、俺もだ」
「儂も出来ることをしよう!」
「そいつは、心強いな」
小十郎がくしゃりと笑う。
一夜を経て、私達の家族ごっこの子供は小学生並に成長したのだった。
私はまだ気付かない。
この成長がまだ予兆に過ぎない事を……
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