オトンとオカンと 佐助の回想 戦国の世を、生きていた。 次に生まれた世界は、驚く程に平和で穏やかで俺が生きていた時代は遥かに昔になっていた。 何で日本史で戦国時代があんなに短いんだろうなぁ。色々あったのにさ。 なんの因果か、現代でも俺の名は「佐助」で多分顔も同じなんだろうと思う。じゃなきゃ、右目の旦那が一目で気付くはずないよな。 「さ、真田の忍か…!」 またまた驚くべき事に、俺様たちは同じ保育園で。お互いに気付いたのは高校くらいだった。 右目の旦那の子供時代? 想像に任せるよ。 てな訳で。 第二の人生だと思って、俺も右目の旦那も自由に生きてた、はずだった。 なんの因果か、俺様たちには。 同い年の幼なじみが出来た。 それが鵺子。 周りの子供とは、少し違った雰囲気を纏ってた鵺子は気が付くと怪我をあちこちにする奴で、俺様も右目の旦那も事有るごとに世話をやいた。 それでいつの間にか、「鵺子のオトンとオカン」なんて言われていた訳だけど。 まぁ、まんざらでもない。 むしろ、本当にそうだったら良かったんだけどなぁ。 俺様がオカンにしろ、右目の旦那がオトンにしろ。小さな鵺子にあんな酷い仕打ちはしなかっただろう。 今でも、覚えている。 夏でも長袖を着ていた鵺子の腕を、自宅に行った時に見た荒れ果てた部屋を、栄養失調で倒れた鵺子の細い首を。 *** 「まさか鵺子が、保育科に行くなんてなぁ」 近くのスーパーに、彼女と二人で買い出しに来たのでその背を見守る。 あの背中にも、数えきれない傷が有ることを知ってはいるけれど、それでも愛しく思えるのは何故なのだろうか。 「…佐助?つまみは何にする」 「んー、秋だし団子とかどう」 「佐助は団子好きだね」 そう言われて、はたと思い出す。団子好きだったのは俺様じゃないけど。生まれ変わってもついつい団子を買ってしまうのは、もはや癖みたいなものだ。 「あー…、そうだな。好きだよ」 「…私も、好き」 何気ない会話だが、かすかに笑う彼女に胸が騒ぐ。また不意に、前田の風来坊を思い出した。 「確かに、いいもんだよ」 恋っていうのもさ。 *** 「へっくし、」 鵺子たちが通う大学の、ある教室で。ひとりの青年がくしゃみをした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |