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オトンとオカンと
逆鱗をど突く


その頃、あるアパートの一室で携帯電話の画面とにらめっこしている『前田慶次』が居た。

しばし悩んで、幾つか文字を打ち。
「いやいや!これじゃ、遠まわし過ぎるよ…もっと、こう…」
焦ったように、文字を消してもう一度打ち直す。そして、また画面を見て唸って「あぁ、もう!」と頭を掻いた。

「女の子にメールするのにこんなに悩んだ事ないよ…!」


転生したとはいえ、一応大学生だ。
今までに付き合った子達だっているし、女友達だっている。人並み以上には経験も積んできたはずなのに、どうしてか彼女に送るメールが打てない。

理由はよく分からないけれど。

「…ひょっとすると、恋かねぇ」

パタンと携帯を閉じて。慶次は幸せそうに微笑んだ。

恋はいいもんだよ。

*****

生まれ変わった世の中は、吃驚するくらい平和で。
家康の言ってた太平の世ってヤツはこれなのか、と最初は思っていた。
ところが、結局世の中は方法の変わった『戦国』みたいなもんだった。死人が出ないだけマシだけど、死んだように生きる人を何人も見た。

それが逆に恐ろしかったんだ。

前田慶次である俺すらも、まるで溶けていくみたいにそんなヤツになっちまうんじゃあないかって。
不安で仕方なかった。


*****

「けど、あんたは違うよ」

そう言って、慶次はまた携帯電話を開く。宛先には『小十子』の字。それは鵺子のアドレスではなく小十郎のとも知らず、彼は大切そうにその名前を見つめた。(不憫すぎる)

「そういやぁ、『ねね』に似てた気がするねぇ。
…もしも、生まれ変わるなんて事が本当にあるとしたらさ。
次は、幸せになって欲しいよ…」

悲痛な表情を浮かべた慶次はしかし、一転して楽しんげな表情になった。

「…さぁて!やっぱりここは、助けてくれた御礼にデートにでも誘いますかっ」

鼻歌混じりに、慶次はメールを作成して、何度も確認して、緊張した面持ちで送信ボタンを押した。


まさか、そのメールが。

『片倉小十郎』のもとに送られるとも知らずに。


*****

ぶーん、と小十郎の携帯電話が振動し。寝かけていた小十郎は見慣れないアドレスに首を傾げながらメールを開き…

そして、口元だけで笑んだ。


「いい度胸じゃねぇか……」


「…どうした?小十郎……目が笑ってないんだが」

「気にするな、鵺子」

子供を挟んで横たわっていた鵺子がこちらを見やり、不思議そうな顔をした。

「……土曜日、出掛ける事になっただけだ…」

「……、そう」

鵺子は、なんとなく察していた。



幼なじみが、殺気立っている事に。


「くわばらくわばら…」

触らぬ神に祟りなし、と。
早く寝よう。

…そして忘れよう。



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あきゅろす。
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