オトンとオカンと
知らない人に用心
再び梵天丸サイド。
急に声をかけられて、弁丸は縮こまって梵天丸の背に隠れた。梵天丸がキッと話かけてきた男を睨みつけるが、
「おっかないなぁ」
とおよそ言葉通りには聞こえない、楽しげな声が返って来た。
「なんか君のその目……熱い人達を思い出すよ、みんな真剣勝負して、勝った負けたで世が湧いたあの日をさ」
どこか、遠くを見るように。
男はそう話したが、梵天丸たちは警戒を解かない。
「…で、アンタはなんだ?色男?」
「おっと!その口振り、やっぱり似てるよ!…はは、懐かしいねぇ…名前、なんてんだい?」
おかしい、と梵天丸は思った。
この男は確かにこの時代の人間であるのに、その目にはまるで戦乱の世を生きたような光が見えた。
「…人に名前を尋ねる時は、まずテメェからってのが礼儀だぜ」
「…言うねぇ、」
ニヤリと、男は笑ったが。
「…うん、君に教えるのは『前田慶次』の方があってるかな?さて、小さなお兄さん!名前はなんだい?」
「見知らぬ者に名を明かしてはいけません政宗様ぁああっ!」
「ぐふっ!」
ばき、と何かが砕ける音がして。『前田慶次』と名乗った男は小十郎に吹き飛ばされ、
「うちのちっさい旦那を拐かそうたぁ…いい度胸だな?」
「ちょ、誤解…っひでぶ!」
キレた佐助に投げ飛ばされるという、二段オチの後にゴミ箱に頭から入るという三段オチを体現していた。
弁丸が泣きながら、佐助に抱きついている横で。
梵天丸が肩をすくめて小十郎と笑いあっている。
「ごめんなさいぃぃっ!佐助ぇぇえ!帰れ、なくなって…!そしたら、」
「ちょ、旦那落ち着いて!よしよし、もう不審者は退治したからさー!男の子なんだから、そんな泣かないのっ」
ひょい、と弁丸を抱き上げてあやす佐助はまさにオカンだった。
「はぁ…心配かけたな小十郎?」
「いえ、政む…梵天丸を信頼して居りますゆえ、出ていかれた時も何かお考えが有ると思いました」
そう言って、小十郎が屈むと梵天丸は首を傾げて「なんだ?」と尋ねると、小十郎が目を細めた。
「お疲れになりましたでしょう、私でよろしければ背中をお貸しします」
「…ガキじゃねぇって、言ってんだろ」
「承知して居ります」
広い小十郎の背をチラッと見て、少しだけ嬉しそうにに梵天丸はおぶられた。
そして彼らは帰路についた。
***
ゴミ箱に頭から突っ込んだ男を放置したまま。
「…あぁ…秋の夜は身に染みるねぇ…どっかに温めてくれる人は居ないかな、」
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