オトンとオカンと
こういう日もある
「ただいまー…」
「おっかえり鵺子ー!ってどうしたのその目…真っ赤じゃん」
先に帰宅していたらしい佐助と、後を追うようにやってきた二人に出迎えられた。
「あぁ…これは…」
溜め息をつきながら、今日合ったことを思い出す。
***
ほんの些細なミスだった。
その日も私は保育実習で子供達と触れ合っていた。外遊びの時間、他の集団に交わらないで一人遊びを続けている女の子が居たので声を掛けた。
砂場で黙々と遊ぶ彼女と同じ目線になるように、膝を折ると頑なに此方を見ようとはしない。
「みんなと遊ばないの?」
「…遊ばない、あっち、行って!」
手元の砂を投げられ、私は目に砂が入ってしまい、それ以上彼女とは話せなかった。
その後、女の子は私にいじめられたと保育士さんに言ったらしく。
私は早めに実習先から返されてしまった。
***
リビングで胡座をかきながら、佐助と豆の筋取りをしながら話していると、テレビを見終わったらしい弁丸が私の背に乗っかった。
「ははうえ、苛められたのかー?」
労るように小さな手で、私の頭を撫でつける彼に思わず笑みがこぼれた。
「…有難うございますね」
「おう!だから、もっと泣いていいぞ!」
どうやら目が赤いのは、泣いたせいだと思われているらしい。得意げに弁丸は「ははうえを苛めるヤツなんて嫌いだーっ!」と私の背中にしがみつく。
「…弁丸、…嫌いなんて……あっ」
弁丸の言葉に、ふと脳内をあの時の情景が過ぎた。
頑なに集団で遊ぶのを拒んでいた子。
遊びに誘わない他の子達。
「そうか…、苛められてたのか…」
私は酷な事を言ったのではないか。
「ん?どーしたの?」
「佐助…、私はまた失敗したみたいだ…」
ぱきん、と手元の豆が折れる。あぁぁ、また失敗した。人の心に土足で踏み込んで気分を害して、私が悪いのに周りは私を慰めて。被害者ぶって、馬鹿みたじゃないか…。
その保育士に、向いてないんじゃないの?って言われて何も言い返せなかったし、うあぁあ。
「そ、じゃあまた次頑張りゃいいんじゃね?」
あっさりと、佐助に言われてしまったけれど。あんまり軽々しい言い方に私は抗議した。
「また次!?…私は、あの子が苛められている事に気が付かなかったんだ!」
「…あのなぁ鵺子さん?心が読める訳でもないんだから、そりゃあ難しいよ?…その女の子もさ、嘘付ける余裕があるんだから。お前が気苦労するだけ損だって、」
「…くっ…」
「ま、しでかした事はしょーがないっしょ!問題はさ、これからなんだから」
と、佐助はまた豆の筋取りに戻る。
しかし私は、どうにも納得出来ないまま。夕飯の材料を買ってきた小十郎達が帰ってくるまで折れた豆を見つめていた。
その間ずっと弁丸が、慰めるようにくっ付いている事にも気づかずに。
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