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オトンとオカンと
寒い朝ですね


「で、何するんだよ鵺子?」

「鵺子『さん』ですよ、」


「…鵺子、上着を着るのは出掛けるからか?」


私は、ダウンジャケットを着込んでホットココアを淹れていた。因みに梵天丸は、小十郎が自腹で買ったらしいダッフルコートを着せて、眠ったままの弁丸はとりあえず毛布にくるんだ。

「…ベランダに出るんですよ、今日の明け方に流星群が見えるらしくって、」

「…へぇ」


頷きながら、渡したホットココアをちびちびと舐める梵天丸はなんだかんだで眠そうにしている。


***

ベランダに、リビングの椅子を引っ張り出して。まだ薄暗い風景を眺めて白い息を吐き出した。

まだ秋なのに、ひどく寒い。


リビングに転がしたままの弁丸は、毛布にくるまって幸せそうにしているが、隣の椅子に座る梵天丸は寒そうにしている。

「…梵天丸、膝に来ますか?」

よく見えないだろうし、一時間に20個くらいしか見えないらしいから、耐久戦になるだろうし。
梵天丸は「子供扱いすんな」という顔をしながらも、寒さには勝てないのか甘んじて私の膝に座った。

「寒いですね」

「…俺の故郷の方がずっと寒い」

「…故郷、とはまた古い言い回しですね…えぇと、どこの出身なんです?」

「…言っても分からねえよ」

…失礼な、47都道府県は無理かもしれないがだいたいわかるのに。話す気は無いらしい梵天丸は、また景色を眺める。

遠くに、都会の明かりが見える。

「随分明るいんだな、」

「そうですね、都会に近いですし比較的明るい方でしょうね」

もしかすると、流星群見れないんじゃないかと内心焦る私はガン無視して、梵天丸は空を見上げている。


「…鳥だ、鵺子…」


「…あぁ、本当ですね…仲間が居ませんね、迷子かな」


朝を待つ街の空を、鳥が旋回している。都会で見ないタイプのあれはトンビか何かだろうか。

「帰れるのか?」

「鳥は、帰り方が分かるらしいですから大丈夫ですよ」


「……」


梵天丸は、眠そうに目を擦りながら鳥をみつめていた。
そして、背を私にくっつけると「俺は帰りたくない」と呟いた。

「…どうして、」

「…望まれて無いからな、居ない方が清々するだろう……あの人にとっても、」


あの人、というのは。
もしかしなくても、親の話だろうと予想がついてしまった。

だから、


思わずギュッと、その小さな体を抱きしめた。


「…なんだよ、」

かすかに笑いながら、梵天丸は身をよじる。


「…なんて、言えば安心出来ますか?」

あぁ、この小さな背中に。彼は何を背負っているのだろうか。せめて、今は君を疎んだりしないとどうやって伝えればいいのだろうか。

鳥を、憧れるように見つめる彼を引き留めるように、抱きしめる。

「…同情かよ、」

「はい、きっと同情です。……私は、君を嫌ったりはしないです、否定もしないです、だから今は此処に居て良いです」

「はッ、帰って欲しいんじゃないのかよ」


「それは、梵天丸次第かもしれません」


確かにこの世には、子供は家族と居るのが一番だと考える人が大多数だと思う。けれど、それでも人は人なのだ。


不協和音が響くなら、少し距離を置くのも必要な事だと思うんだ。決して逃げではなく。


今は、



ただ、


「……そうか、」


そばに居ても、いいだろうか。



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