オトンとオカンと
帰ろうよ
とは言ったものの。
講義が終わった後、私は足早に教室を去り。かなり急いで帰ろうとして
「鵺子、今日タイムセールスの日だったっけ?」
つなぎ姿の佐助に遭遇した。
「…っ!何故まったりしている佐助…!」
「え、昼間の俺の説得聞いてなかったの?!結構良い話したつもりだったのに、」
「私にとっての最善は、佐助も連れて小十郎の援護に回る事だ…!」
「鵺子は何と戦ってるの?!!」
荷物からして、佐助も帰るところだったのだろう。これぞ好機と私は彼の腕を掴んで駆ける。周りで「え、修羅場?」「痴情のもつれ?」という通行人の声が聞こえて来たがそれどころじゃない。
「いやいやいや!?ちゃんと否定しようよ鵺子さん!違うからね!俺様そんなチャラくないからね!意外に一途なんだからーっ!」
「口動かす暇有ったら、足を動かすんだ佐助…!」
「だから目が座ってるってば!有らぬ誤解受けるのは嫌でしょうがーっ!」
「佐助なら嫌じゃない!」
「どうしよう、鵺子ったら男前!惚れるぞ?」
「だが断る」
佐助が何故か落ち込んでいるけど、気にせずに走り続けて校門を出てと角を曲がったところだった。
何やら小さなものが、私の下腹部に突っ込んできた、
「ぐはっ、」
「ははうえーっ!」
…え、
ぐりぐりと頭を押し付けているのは。見慣れた着物ではなく赤のトレーナーを着た、弁丸だった。
なんでここに、まさか脱走したのかと案じていると。
「…随分慌てていたな、鵺子」
「小十郎…!あと梵天丸も、」
「よぉ、鵺子。迎えに来たぜ」
小十郎と手を繋いだ梵天丸も、紺のパーカーを着ているし、目を隠しているのは包帯ではなく眼帯だった。外で見てみると、なんだか不思議な気分だ。
すると、先ほどまで頭を押し付けていた弁丸が私の手を引っ張った。
「ははうえ、帰ろう!」
「え、大将……弁丸、俺様はー?」
「んー、佐助は左手!」
私と佐助の間に、弁丸が入るとなんだか親子みたいというか。
むしろ捕らえられた宇宙人というか。
「鵺子、そこは素直に親子で良いんじゃない」
何故バレた。
***
目の前で、弁丸が鵺子と手を繋いで笑っている。後ろから見ていると、まるで親子みたいで思わず小十郎の手を握りしめてしまう。
それに気付いたのか否か、小十郎が握り返しながら
「よろしいのですか?」
と聞いてきた。
「…構わない、俺は別に家族ごっこがしたい訳じゃねぇからな」
「……」
「弁丸はまだまだガキだからな、俺は大人だから譲って…」
「…私は何も手を繋がないのか、とは申しておりませぬが」
「…っ、」
睨みながら見上げると、小十郎は静かに微笑んでいた。悔しい。
そしてまた、鵺子の背を見つめた。
手を繋ぐ弁丸を自分に重ねて。あんなに無邪気に笑える自信は無いけれど、
「小十郎、また…迎えに来ような」
「…御意に御座います」
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