オトンとオカンと
不安は尽きない
***
大学の講義は、ぶっちゃけ気が気でなかった。
あのチビっこ達と小十郎が上手くやってるかどうか不安になる。
昼休みにカフェテリアで佐助と落ち合うと、彼は「大丈夫、ああ見えて面倒見いいからさ」とは言うが。やっぱり不安だ。
とにかく早く帰りたかったのに、生憎今日は先週の保育園実習の報告会があるのだ、夕方にはなってしまうだろうし、
「だから俺様モニュメント作りなのって言ってるじゃんさ!」
「佐助ぇ…」
「旦那なら大丈夫だからさー!」
なんで断言出来るんだ。
因みに私だったら、出来るか分からない。子供って何を考えてるか分からない、結局他人だし彼らも人間なのだ。
直情的で、行動動機も不明なのに。
「小十郎が器用な人なのはわかってるけど……、でも」
「…なんなら帰りな、鵺子?不安なのは分かったから、確かめればいいっしょ?」
あ、佐助の表情が冷たくなった。幼なじみのカン的に、彼がこうなるのは私が悪い時だ。
「…それは出来ない、私も単位があるから。…それと、」
「うん?」
「私が行っても、何も出来ないから」
「…そう?ま、そう思ってる内はそうかもな」
佐助の声はいつもの調子に戻ったけれど、やっぱり少し機嫌が悪そうに聞こえる。
ちょっと落ち込んでいると、何故か頭に手を置かれてかき回された。
「なんでそう、ネガティブかねー…!あのな、鵺子!俺様たちは俺様たちに出来る最善を尽くしてる、違うか?」
「それは、そうだ…」
「だろ?なのに、未練がましくウダウダ言うのはおかしいっしょ?今はやるべき事をやりな」
ぐぅの音も出ない。
「でも、心配なんだ…」
「…まぁ、そりゃ確認すれば済む話しだな」
そう言うやいなや、佐助は携帯電話を取り出して私に手渡した。すでに通話状態になっている。
佐助を見やると、首の動きで「出なよ」と指示されて携帯電話を耳に当てた。
『…鵺子?』
「なんで、分かる」
『…あぁ、息の仕方でな』
なんだそうか、エスパーかと思ってしまった自分が恥ずかしい。
『何か用か?』
「あ、…子供たちは?」
『…今は食後の昼寝だな、なんだ心配していたのか?』
「だって、泣いてたじゃないか…!」
そう、出掛けるときに。弁丸は泣き叫んでいたじゃないか。
あの後は、罪悪感に苛まれた。
すると、受話器越しに小十郎がかすかに笑う。
『あぁ…あれはな、お前たちが行って直ぐに止んだ』
「え、」
『あれで、弁丸も聡い。泣けば離れずに済むと思ったのだろうが、理解も早かったからな。その後は政…梵天丸と遊んでいた』
「そ、そうなのか?でも離れたくない、なんて……」
たった一夜だ。彼らと過ごした時間はたったそれだけなのに。
『…お前は、信頼されている』
小十郎の声は、子供に言い聞かせるように優しい。
『分かるか、鵺子?頼りにされているんだ』
「…私が、」
泣き出しそうになる、私の手から。佐助が携帯電話を取り上げて「じゃ、旦那後でー!」と電源を切って。また私の頭を撫でる。
「…さっきさぁ、お前なにも出来ないって言ったけどさ。違ったっしょ?」
ふわり、と佐助が笑う。
「鵺子が思ってるよりさ、ずっと必要にされてるよ。…だから、もうちょい自信持って良いんじゃない?
少なくとも、俺はそう思ってるからさ」
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!