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オトンとオカンと
食べようよ


驕り高ぶっていたつもりはないが、それでも周りよりは強いつもりでいた。

それが、転生をして。



ガキの体の非力さをあれほど恨む日は二度と迎えたくはない。止められない辛さを、無力な自分を、もう二度と。



***


「…おはよう、小十郎」


「…鵺子、」



朝早く、鵺子は目覚ましも無く起きたらしい。ちなみに猿飛はまだ寝ている。

弁丸たちも眠っているのだが、目が覚めたものは仕方ない。

「…朝飯を作ってくる、鵺子は」

「うん、まだ無理かな…弁丸がくっついてしまっているし」

そう言って、掛け布団をめくると彼女の腹の辺りに弁丸が。服を掴むように梵天丸が縮こまっていた。

「そうか、……今日は大学を休もうと思う」

「そう、ごめんね」


「構わない、これでも成績は悪くはないからな」


「流石、小十郎」


ニヤリと笑う鵺子は、いたずら坊主のような瞳で見上げている。なんと無く、頭を撫でてやるとふにゃ、と破顔する。

「ありゃ、鵺子ってば寝起きは感情豊かだな」


猿飛も起きたらしく、座ったまま伸びをしている。


「いっつもそうなら可愛いのにさぁ…勿体無いな」

ぶつぶつと呟く佐助をスルーして、鵺子が指をさした。

「あそこの引き出しに、エプロン入ってる」

「すまねぇな」


「俺様も手伝うよ」


***


二人とも、よく似合っていた。

「いやいやいやいや!なんで俺様割烹着なの!?しっくりするけども!」


文句たれながら、きんぴらごぼうとか作る佐助はやっぱりオカンなんだろう。

そんな光景に頷いていると、足元に小さな影が二つやって来た。


「おはようございます梵天丸、弁丸」

子供たちは朝早くに起きた割には目覚めがいいのか、佐助の作ったきんぴらを見て喉を鳴らしている。

「よし、味噌汁出来たぞ」


うん、朝ご飯にしよう。
子供たちは歳の割には上手に箸を使って料理を口に運んでいた。彼らの家庭は厳しいのだろうか。

***


「…ははうえ」


朝ご飯が終了して、私が洗い物を片しているだった。いつの間にかくいくい、と私の服の裾を弁丸が引っ張っている。その瞳はどこか不安げだった。

「どうしましたか」


「…どこにも、行くなっ」



「え、」


弁丸は終始『母上』と言っていたので、てっきりそれしか言えないのかと思っていたが、違ったらしい。
まぁ弁丸の方が、梵天丸より体が大きいくらいだから同い年くらいかとは思っていた。

…梵天丸が、ませてるだけか。


「約束、して」


「…出来ないですよ、弁丸」


「なんで…ぇっ」


強気に見えた顔が、突然崩れた。たちまち大きな瞳に水の膜が出来て、こぼれ落ちそうになる。

心苦しいが、私は言わないといけない。


「…単位が、不味いんです。これ以上休んでしまうと、試験が受けられないんです。落とすと教員免取る為にはまた一年通わないと行けな、」


「はいはい鵺子、なに子供にマジに語ってんの。そろそろ時間っしょ」


佐助が、私の前に立って「行け」と合図を出している。弁丸は私の言った言葉に悩みながらも、離れまいと私の服を掴んでいる。

「…弁丸、」


「ぼん、」


「梵は止めろ。…あー、俺と稽古しよう」


「稽古!」


キラキラ、と弁丸の目が輝いて。小十郎が作ったらしい新聞紙の剣を差し出す梵天丸の元へと歩いて行く。

梵天丸も、私に目線で「行け」と合図している。



え、でも置いていって大丈夫だろうか。泣かないだろうか。


「ほら、急ぐっ」


佐助に腕を取られて、玄関まで駆け抜けて靴を拾って扉を閉める。鍵を閉めると、施錠音の後に弁丸の泣き声が聞こえた。


「小十郎頼んだ…、」


「旦那なら大丈夫だろうけど、こりゃ毎朝ヤバそうだな」



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