半透明な居候。
マシューだよ
じっ、と目を凝らすと。
もう1人のアルが見えるではないか。…いよいよ私も疲れてしまったのだろうか。
見つめていると、もう1人のアルと目が合ってしまい。思わず会釈する。
「み…見えるの?」
震えるような、微かな声がしたので私は迷わず頷いた。すると彼は驚きと喜びに頬を上気させて目を輝かせている。
しかし、私が何か言う前にアルが割り込んで私を覗き込んだ。
「なぁ、君!どうしたんだい?」
アルには見えてないのだろうか。もう1人のアルが隣にいるというのに。
「それにしても君はwonderfulだな!後ろの風景が透けてるのに、君はに此処にいるんだぞ!」
「っえ」
急に、大きな体が体当たりしてきたかと思うと。思いっきり抱きしめられた。
「……っ?!!」
「うーん、暖かい訳じゃないなー?!wonderful!DDDDD!」
暖かい人(国)の感触に、私は驚きながらもなんだか安心感が湧いた。
しかし、もう1人のアルはなんだか傷ついたような、ショックを受けた顔をしていた。
「僕を見れる人…やっと見つけたのに、」
「…あなたは、誰?」
アルに抱きしめられながら、手を伸ばして尋ねる。彼は迷いながらゆっくり近付いて来て、私の手を取り自らの頬に当てた。
「……マシューだよ」
曖昧に、しかし嬉しそうに目を細める彼に。何だか温かな気持ちになっている時だった。
「Hey!!さっきから一体誰と喋ってるんだい!俺を無視するなんて酷いよ!」
「マシュー、だよ」
「……へっ?」
アルはキョトンと辺りを見渡している。仕方ない。私は大きく息を吸い込んだ、
「***
だから、マシューだよっ!!
***」
急に大声を出した私に、アルはびっくりしたのか目をまん丸に見開いて、
「君、彼が見えてるのかい!」
と、何故かたかいたかいされたままぐるぐると回された。
***
「な、なにするんだよアル…!彼女が可哀想だよ」
「HAHAHA!何を言ってるんだいマシュー!居候は嬉しそうだったんだぞ!」
脳内シェイクされてふらふらする私を、マシューが支えながらアルを叱ったが彼は聞く耳を持たない。
「…また三時間説教しようか」
「悪かったよ、居候!!」
マシューが一瞬黒いオーラを放つと、慌ててアルが謝罪しに来た。底知れないなマシュー。
「…けど、少し楽しかった」
「だろう!?」
「居候ちゃん、アルを甘やかしちゃダメだよ…」
「ううん、本当だよ。初めて誰かに抱きしめられたし、たかいたかいされたのも、全部初めてだから」
思い返しながら、そう呟くと。マシューが眉をひそめて「…ズルいよアルばかり」と言って。私に近付いたかと思うと、急に額に柔らかな感触が降ってきた。
「…じゃあ、キスは僕が初めてかな」
「……え、」
「な、なにやってるんだいマシュー!君そんなキャラじゃ無いだろー!?」
唖然としている私を余所に、彼らは騒ぎ始めてしまった。しばらくして、肩に手が添えられている事に気が付き振り返るとフランシスさんが微笑んでいた。
「あ、お帰りなさいフランシスさん」
「たっだいま、居候。…で、お帰りなさいのキスは?」
いたずらっぽくニヤニヤと私を見下ろしているフランシスさんは、「ほっぺでもいいぜー」とほざいている。
対応に困っていると、今帰ったらしいアーサーさんが「居候に何してんだフランシスぅううう!」と私から彼を引き剥がしてくれた。
「だ、大丈夫かよ…」
「…はい、アーサーさん。…お帰りなさい」
「…あー…、その、」
急に頬を染めて、頭を掻きながら。彼はそっぽを向いて「…ただいま、居候」と呟いたのだった。
***
その後、ぶっ壊れた扉を直す羽目になるアーサーさんがいたとかそうでなかったとか。
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