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半透明な居候。
フランシスさんは


さっ、と私の前からダークマターが去った。

アーサーさんが何か叫んでいたがそれどころでは無くなる。だって目の前には。

「お前なぁ!こんないたいけなお嬢さんに劇物食わせるなんて鬼畜にも程があるわよ!?お兄さん泣いちゃう!」

「どっから湧いてでたんだよフランシス!」


きらきらとした効果を背負ったお兄さんが、優美な仕草でダークマターが乗った皿を私の手の届かない所へ持ち上げたのだった。

「フランシス、さん?」


「そうそう、お兄さんの事はそう呼びなよお嬢さん(Mademorselle)?」


にこっと笑うフランシスさんは、相変わらず優雅にアーサーさんの抗議を受け流して私にお辞儀をした。
おぉぉ…!

「紳士ですね…!」

「光栄だよ」

「英国紳士は俺の特権だろうがっ!」


アーサーさんがよくわからない返しをした。


***
フランシスさんは、紳士ですよ?
***



「で、なんで居るんだよ。また俺ん家の偵察か」

「ふっ、甘いな!お兄さんはいつもどこでも現れるのさ!」

「…ぁあ…、夏場でかさかさ動くあれか?」


「ひ、酷いわっ!美しくもなんともないじゃない!もっとお兄さんの美しさを表してるものにしろよアーサー!」


ハンカチを噛み締めながら涙を散らすフランシスさんをぼーっと見ていると、ばっちり目が合ってしまった。
瞬間、にっこりと笑みを浮かべて。



「ん?どうしたのお嬢さん?君もお兄さんの魅力に心奪わてしまったかな!」

その後ろではアーサーさんが「けっ」という顔をしているけど、うんフランシスさんかっこいい。
素直に頷くと、フランシスさんの表情が固まって。アーサーさんは立ち上がって私の襟首を軽く持ち上げた。

「う…うん…!素直でお兄さん嬉しいわ…」


急に顔を背けられて、なんだかショックだったけどアーサーさんが代わりに視界いっぱいに広がった。

「お、お前は俺の味方だろーがぁあああ!馬鹿ぁあぁっ」

「なんで泣いてるんですかアーサーさん、私はアーサーさんの味方ですよ。だって居候させて貰ってますし、タダ飯食わせて貰えるはずですし、ベッドも頂けるんですよね」

「さり気ないつもりか!お前えげつないな…」


ぐったりとうなだれたアーサーさんは、しかし。何故か機嫌を直してくれたらしく、私の襟首から手を離した。

「いやいや、飯だけは止めておいた方がいいって…!」

フランシスさんが、私を気遣ってくれるが別に構いはしない。誰かにご飯を作って貰える日が来るなんて思わなかったから。

「…それに私、いつ消えるか分からないですし」


「あ…」


フランシスさんが、口を噤んだ。しばし悩んで。


「…いや、せめて寿命を縮める劇物は食べさせないよ!せっかく地球は美しくて旨いものがあるんだからね!」


と、いう訳で。


「お兄さんちょっとこの家に泊まっちゃうから」

「いや、誰も許可してねぇよ!」

「今晩何にする?前みたいに作ってあげるからさ」


やいのやいのしてるけど、


「…フランシスさん、此処に居てくれるんですか?」


「もちろんだよ、お嬢さん!」

「いや、でもお仕事とか有るんじゃ…」


私の問いに、フランシスさんは間髪入れず「え?ストライキだよ!」と笑顔で返してくれた。

…って、


えぇぇ…
良いんですか本当に…。




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