半透明な居候。
エリザベータによる
ギルベルトさんに引っ張られながら、獣道を駆けていく。
漠然とした不安の中で、繋がれた手からじんわりと伝わる温かさと、怪我をしているのだろう鉄錆のような匂いが混ざり合う。
「怪我、してるんですか」
「はぁ?当たり前だろーがそんなもん!
俺様は確かに無敵で強いがな、喧嘩してりゃ怪我くらいするぜ」
「手当てしないんですか」
「敵が来てんのにそんな悠長な事出来るかよ」
呆れたように、目を細めて。ギルベルトさんはまた速度を早める。どこへ向かっているなのか、誰と戦ってるのか、聞きたい事はたくさんある。なのに、
「心配すんな!」
「え、」
「俺様に任せろって言ってんだよ」
彼がニヤリと笑うと、獣道から抜けた。
目の前には、煌びやかな屋敷が広がっている。
「よし、やっぱ俺様すげぇ」
「えっ、あの」
「じゃあ、またな居候」
実にあっさりと、繋がれていた手が解かれた。彼は後ろの森を睨みながら、腰に手を当てて体を伸ばしている。
ダメだまったく着いていけない。
「な、何言ってるんですか?助けてくれるんじゃないんですか?どこに…」
「今はこれが一番良いんだ」
不安がってるのを知ってか知らずか、ギルベルトさんは私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
不敵な笑みを浮かべて。
「任せたぜ、エリザ」
「勝手に入って来ておいて、まさか無事に帰れると思ってるの?」
背後から、よく透る声がした。本気で怒っているというよりも、昔馴染みに冗談を言うような声音だった。
「そいつ、こき使ってやっていいからよ」
「勝手な事言わないで、ちゃんとローデリヒさんに…」
「フェリシアーノちゃんによろしくな!」
言うが早いか、ギルベルトさんはまた森の中に消えてしまった。
「はぁ…面倒見がいいんだか悪いんだか…、理由はよく分からないけど、またアイツが迎えに来るまで置いておいて貰いましょう」
ふんわりとした、可愛らしい髪のエリザさんは実に頼りになりそうな笑みを浮かべていた。
「ね…姐さん…!」
「ね、姐さん?……普通に、エリザでいいのよ?」
「エリザ姐さん…!」
「う、そう来るのね……まぁいいか…」
肩を竦めながら、彼女は私を上から下へと見渡した。何やら頷きながら、エリザ姐さんはにっこり笑う。
「お着替え、しようか!」
その日、居候の悲鳴がローデリヒの屋敷に響いたとか響かなかったとか。
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