半透明な居候。
名前も知らない君に
唐突で申し訳ないのですが。
…視界が、真っ白だ。
*****
「あばばばばば…あの世?遂に?消えちゃっ、」
…そこまで考えて、涙で視界が滲んだ。
そんなそんなそんな!!まだ複線回収も済んでないよ!色々果たしてないし!
そんな事を考えながら、ぶわっと溢れた涙を拭いながら立ち上がって、ふと気付いた。
「…ん?足がある……、つまり死んでない!!いぃぃいやっふぅう!」
『…こんな事を、初対面の奴に言うのは気が退けるんだが……死んでも足はあるだろ?』
「……、これが…ジェネレーションギャップというものですか」
わなわなと震える私の後ろで、冷静に突っ込んで来た彼は『年齢の問題じゃないと思う』と目を伏せて苦笑いしていた。
***
彼もまた、国なのだろう。国的な第六感で感じとれたのだ。
そしてもうひとつ、感じとれた事がある。信じたくはないが、彼もまた消えかかっているというか……とても不安定で曖昧な存在である気がする。立ち位置的にも。
この真っ白な濃霧の中のような世界も、とても曖昧で。
「まるで『あっち』と『こっち』の境界線みたいな……」
『…あながち、間違いでもない』
黒い大きな帽子を被っている彼は、幼さが残るその顔で達観したような表情を見せた。そのアンバランスさが、なんとなく危うい感じがする。
その言葉の重みに、空恐ろしくなって。私は半透明な自分の体をこっそりと強張らせていた。
それに気付いてか知らずか、名前も知らない彼はふいに「心配ない」と溜め息混じりに呟いた。
『かく言うオレも、なんでこんな所に居るのか分からないが……このご時世に国が簡単に無くなる事はない』
「まぁ確かに昔は…たくさんの国が有りましたからね。今もですけれどー」
『そうだ、例え国が無くなっても、人が居るし文化は残るからな』
まぁ私は建国以前の問題なのだが、彼はまるで自分に言い聞かせるように話すので、何となく口出しし難い。
『だから、大丈夫…』
「…あ。」
なんだろう、今。
彼の横顔に誰かが重なった。
大丈夫だよ、
居なくならないよ、
知らぬ間に、涙が溢れた。
消えたくない。
まだ居たいよ。
誰かに会いたい。
「消えたくない…」
『なんだ、あんたは諦めてるのかと思ってた』
くつり、と笑った彼はサラサラとした金色の髪の下の薄い空色の目を細めて笑った。
誰かに、似てる。
『大丈夫だ、迎えが来るから』
「君は?君の迎えは?」
こんな場所で、ひとりだなんて寂しいじゃないか。…キョトンとした彼は、次には優しく笑んでいた。
『…オレは、帰れる』
「でも…」
『まだ帰らないだけだ』
ふん、と鼻をならして。不敵に笑う彼は『まだ立派になってないからな』と呟いて、やはりフェリシアーノの言葉が蘇った。…何か言おうとしたとき。
急に彼に背中を押された。
無重力感に、驚きながら。
私は彼を振り返って叫んだ。
「…っ!君の事!待ってる人が居るんです…!ずっと昔から、今まで!ずっとずっと待ってるんです…!」
『…え?』
「だから!早く…帰ってあげて下さいっ!きっと、喜んでくれる…!」
『……』
彼は、ふと目を細めて。
空を仰ぐように顔を上げた。
名も知らない君に、デジャヴを感じたんです。
叫ぶ私の声も虚しく。
彼はどんどん小さくなっていく。
あぁ、やだなぁもう。
*****
どすん、と無様に着地した私は何か暖かいものの上に居る事に気がついた。
銀色の髪の毛がツン、と揺れている。
「俺様マジ天使…」
なに言ってるんだこの人。
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