半透明な居候。 フェリとフランシス それはまた、とある日の事。 アーサーさんの薄暗い書庫に籠もっていた私の耳に、来客のチャイムが届いた。 しかし、どうにも動きがとれないため「どうぞー」と叫んだ所。ぱたぱたと軽い足音が聞こえて扉が開き、薄暗い書庫に昼の日差しが差し込んだ。 ついでに、くるんとした髪が見えて私は思わず「フェリシアーノさん」と呟いた。 「やっほー、居候ちゃん!今日はとってもいい天気だからさー、一緒にシエスタしようかなーと思ったんだけどー…」 私の状況を見て、フェリシアーノが表情を固まらせて首を傾げた。 「えっとー…、ポルターガイストでもあった?」 「否、これはアーサーさんの蔵書たちが私を押しつぶしたのですよ」 そう、本に埋もれて挨拶をする私を不思議そうに眺めて、やがてフェリシアーノは私を根菜類よろしく引っこ抜いてくれた。 「はは、居候ちゃんって軽いんだね〜」 「それはまぁ、半透明ですからね。これで重かったら詐欺ですよ…多分」 シースルーな私を本の山から救出した彼は、へらりと笑って何故だかそのまま高い高いをする。 「わ、わ、フェリシアーノさん!なんですか!」 この人、痩せててフワフワしたイメージだったのに。私を掲げたまま楽しげに廊下に踊り出た。 「えっと、なんか嬉しいんだよー」 「なんか、って…」 「うまく言葉に出来ないやー。けどさ、居候ちゃんが此処に居てくれるのが嬉しいんだよー」 一体どういう意味か分からない。なのに彼は一人で楽しげに「ヴェ、ヴェ」とくるんとした前髪を跳ねさせている。 「居候ちゃんがー、消えちゃいそうって話を聞いたんだー。でも今此処に居てくれるよね、だったらずっとこのまま居てくれるかも知れないよー」 「は、はぁ…?」 ふと、楽しげに見えた彼の表情が懐古するような寂しいものに変わった。 「いなくならないよ、大丈夫だよー」 「……、」 にへら、と笑った彼がなんだか痛々しく見えた気がして。しばらく好きなようにさせていたのであった。 ◇◆◇◆◇ 「…で、お前らはいったい何してんだよ」 「すいませんアーサーさん」 結局、アフタヌーンティーに誘いに来てくれたアーサーさんに発見されてしまったのだが。 一緒に見に来たフランシスさんは、何故だか目を細めて笑っていた。 フェリシアーノは、アーサーさんの登場に少しビクッとしたのだが「シエスタしようと思ってー」と少し控えめに呟いた。 「シエスタ…?なんで居候と、」 「一緒に寝るだけですよ?」 不審がるアーサーさんに、説明すると彼は何故か真っ赤になって「慎みを持て!淑女だろうが!」と怒られてしまった…何故… 「なー、フェリシアーノ?」 「なーに、フランシス兄ちゃん?」 「そう簡単に消えたりしないさ、だから大丈夫」 「……、それは俺が居候ちゃんに言ったんだよ〜?」 「まぁそうだけどー…。なんとなく、さ!」 「…うん、ありがとー」 言って欲しい言葉。 言ってあげたい言葉。 消えたりしない。 居なくならない。 フェリとフランシスと、 秘密の話。 彼は誰かを待っている。 [*前へ][次へ#] [戻る] |