半透明な居候。
トーリスさん曰く
やがて、しびれを切らしたらしいトーリスさんが、溜め息混じりに
「ほらっ、用事も済んだんだからもう帰るよっ」
とフェリクスさんに言って肩をすくめる。
「ん?もう帰るのかいトーリス?ゆっくりして行けばいいじゃないかー!」
「あ、アルフレッドさん…っ」
……。
なんかアレだね。
終電行っちゃうから帰る友達を見送る気分というか、悪酔いした上司が新人くんに絡んでるの見てる気分というか、
「や、素直に帰してあげるべきですよアルさん」
「だって居候ー!みんなでやるからパーティーは楽しいんだぞ?join us!」
はしゃいだ様子のアルが、炭酸飲料のボトルの手にする。
私の脳裏に、先ほどそのボトルが振りまくられていた事が思い出された。
思わず緊急回避したのだけれど。
「わぁああっ!?」
トーリスさんが被害を被ったらしい。南無三。
トーリスさん曰く、よくある事。
アーサーさんに頼んで、トーリスさんに着替えとシャワーをお貸しした。
アルも今ごろ着替えている頃だろう。因みに私はトーリスさんにシャワールームを案内中である。
「…えぇと、何だかすみません。炭酸が吹き出すだろう事は予想してたんですけど、」
「いいえ、俺も迂闊でした……」
「…大丈夫ですか」
「はは、慣れっこですよ…こういうの」
グッタリした様子のトーリスさんは、炭酸飲料でベトベトになった髪を弄るようにして、私の後を付いてくる。
うーん、なんだろう。
この安心感。
初めて会った人に対してこんな事を思うのも変だけど。
「なんだか、トーリスさんと居ると安心します」
「…え、えぇえっ!?そ…そうかな、なんか嬉しいな…」
「うん、そういう所が…」
周りの方々とはなんか違う。そう、敢えて言うなら…
「すっごく普通…」
「はは、」
引きつった笑いを浮かべたトーリスさんに、慌てて「誉めてます」と付け加えたが「うん…」と目を逸らされてしまった。うあぁあ、やらかしたぁあ。
「ち、違うんです。あの、常識人!良識ある人、協調性ある人っ!そういう人に会いたかったんです、だから」
私がワタワタと話して居ると、ポカンとしていたトーリスさんが、クスッと笑った。
「…もう、分かりましたから。大丈夫ですよ?」
「う…っ、」
「…苦労しますよねぇ」
遠い目をするトーリスさんは、私が立ち止まったのを確認して、シャワールームに向かう。
「えぇと、ここにタオル置いて起きますから…」
慌てて私が立ち去ろうとすると、トーリスさんが私の肩を掴んだ。私の肩掴めるんだ。私は半透明なのに。
「気を付けて、居候さん」
「え、」
囁くような声のトーリスさんを振り返ろうとする前に、バタバタと走って来る音がして、とたんにぎゅうっと誰かの腕に巻かれた。
体をよじって、何とか息をすると頬を膨らますアルの顔があった。
「置いてくなんて酷いじゃないかー!まだ慣れて無いんだから、俺も連れてくべきだよ!」
「あ、アル…」
「分かったかい?」
分かりました、と私が言う前にアルがまた私を抱き込んだので、私は知る由もない。
「…居候は俺がちゃんと守るから、心配要らないよ」
アルが、口元だけ微笑んでトーリスさんと話していた事を。
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