ある夜の秘恋の噺 2 「いや、むしろ逆ですよ」 そう返すと、案の定びっくりしたような顔で千晶さんは俺を見返してきた。 「それが、普通なんです……!」 俺はかぐや姫だけど、その前に郭哉だから。だから千晶さんは俺と似てる。 正直言えば、前世とか実感ないしそれで愛とか恋とか言われても分からない。いや、全く分からないでもないけど。 「だいたい、おかしいじゃないですか…俺と、千晶さんだけじゃなくて、みんなみんな…おかしいんですよ」 初対面の辰壬さんでも、アー君でも。 昔から一緒の竜友も。 みんながみんな、俺をかぐや姫と言う。 いきなり、高感度MAX状態って。 それもう、チートか何かですかってつまらなくなる。 言い方は変だけど、どうせ関わるならちゃんと関わりたい。 ズルしないで、仲良くなりたい。 「嫌なんかじゃないですから、だから……その、もし良かったら」 千晶は、目の前の少年がおずおずと手を出して恥らうように目を伏せるのを眺めていた。 「お友達から、お願いします……!」 「え、ちょっ、ちょっと待って下さいね?なんで付き合うみたいになってんの、姫ってば本当に行動原理不明過ぎだから!」 慌てながら、戸惑いながら、千晶さんは行き場のない俺の手をすくうように、両手で掴んだ。 あ、どうしよう。 嬉しい。 いままで、あまり人に感心を向けてなかったからかな。 すごくすごく嬉しい。 「いきなりなんなんですか、貴方は……」 呆れたように笑う千晶さんを見て、俺はすごく満足だったんだ。自己満足の幼稚な行動に、千晶さんはちゃんと向き合ってくれたんだ、って。 そう思って、何も気づかないまま、 また眠りに着いた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「…カグヤ、眠った、の?」 「そうみたいですよ」 中の様子を既に知っていたかのように、辰壬はふすまを開いて千晶を見下ろしてから郭哉の顔を見て、安心したように微笑んだ。 「かわいい」 「全くですね、かわいい人ですよ」 気のない同意に、辰壬は眉を顰めて責めるように千晶を睨んだが当人は気にも止めずに手を払うようにして立ち上がる。 その目はやはり冷たかった。 「曲がりなりにも、僕は転生者で。 貴方はかぐや姫で、それ以外にはなり得ないのに」 「……わざと、あんな顔した、な」 「…悪い?友達ごっこでもなんでも良いですよ、早くかぐや姫には決めて頂かないと、ねえ」 くつり、笑う千晶の目は複雑な心境を覆い隠すように凪いでいた。 「千晶は、キライ」 「はいはい、僕も辰壬くんが嫌いですよ」 「違う、千晶は、かぐや姫が嫌い?」 息を呑む音がやけに大きい。 暗がりにいるせいか、千晶の表情はあまり見えない。 「そうですねぇ、僕の人生あの子に振り回されっぱなしですからね」 「なら、もう近づくな」 軽く返した千晶に対して、辰壬の声はまるで仇でも目の前に居るかのような辛辣さだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |