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ある夜の秘恋の噺



そうだ、理解できない。



どうして学校の皆は俺を忘れてしまったんだ、
どうして桃耶はそんな事を言うんだ、



なにもかも、みんな『姫』のせいなのか。
アンタのせいなのか、なぁ。

「嫌だ……」

じくじくと、心臓が痛くなって。俺はその場にうずくまる。
暗くなっていくせいか、桃耶も見えなくなって、そもそも郭哉は今桃耶を直視出来ないくらいに動揺していた。

なのに、いつものように。


「大丈夫か、郭哉?立てるか」

優しい声で、力強い腕で俺を引っ張り上げる幼馴染みを、郭哉は力なく眺めていた。
桃耶は気にした様子もなく、手を引きながらいつものように郭哉をアパートへと送っていく。
言葉はない。



ただ、ずっと手は握られていた。



「……なんで」

家の前で、手を離された時。
帰ろうとする彼の背に、郭哉は問いかけた。

「なんで、トウヤは…俺を×すなんて言ったんだよ…!」

半ば、キレたように。力なく叫んだ。
その言葉を受け止めたのか、桃耶はいつもの鋭くて強い眼差しで郭哉を見据えた。

「お前が……
『かぐや』が望んだからだよ」

「…やっぱり、トウヤも……」


かぐや姫を愛していた?
昔に愛を誓った?


顔なんて見れなくて、俯いた郭哉の視界に桃耶の靴が見えた。そして、頭を撫でられた。

「何考えてんのか丸分かりだな、郭哉。
言っとくが、俺は…『姫』とはなんでもない。ただの友達だったよ」

「…友達」

「うん、そんで…郭哉とは親友だと思ってる。馬鹿なお前に分かりやすく言うなら、お前の方が好きだよ。きっかけは何にせよ、今の俺にとって一番なのはお前だ」

「親友…」

顔を上げると、照れたように頭を掻く幼馴染みがいた。
しかし、急にそれは苦笑に変わって。
決意したような、そんな目だった。


「だから、もう傍観するのは辞めたんだ」








「お前、やっぱり、鬼だった…」

抑揚のない、なのに陰鬱な声が背後から聞こえて。同時に長い腕が絡みつく。

辰壬さんが、俺を閉じ込めるように抱き締めていた。その視線は桃耶を見つめている。


辰壬さんの言った言葉が、ぐらぐらと脳を揺らす。

「鬼……?」

「カグヤ、気を付けて……あいつ、晦のと、一緒だ……鬼だよ…」


また、だ。
桃耶はそんな事を言われても。


いつもの顔で、手を振った。



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