ある夜の秘恋の噺
3
そうだ、理解できない。
どうして学校の皆は俺を忘れてしまったんだ、
どうして桃耶はそんな事を言うんだ、
なにもかも、みんな『姫』のせいなのか。
アンタのせいなのか、なぁ。
「嫌だ……」
じくじくと、心臓が痛くなって。俺はその場にうずくまる。
暗くなっていくせいか、桃耶も見えなくなって、そもそも郭哉は今桃耶を直視出来ないくらいに動揺していた。
なのに、いつものように。
「大丈夫か、郭哉?立てるか」
優しい声で、力強い腕で俺を引っ張り上げる幼馴染みを、郭哉は力なく眺めていた。
桃耶は気にした様子もなく、手を引きながらいつものように郭哉をアパートへと送っていく。
言葉はない。
ただ、ずっと手は握られていた。
「……なんで」
家の前で、手を離された時。
帰ろうとする彼の背に、郭哉は問いかけた。
「なんで、トウヤは…俺を×すなんて言ったんだよ…!」
半ば、キレたように。力なく叫んだ。
その言葉を受け止めたのか、桃耶はいつもの鋭くて強い眼差しで郭哉を見据えた。
「お前が……
『かぐや』が望んだからだよ」
「…やっぱり、トウヤも……」
かぐや姫を愛していた?
昔に愛を誓った?
顔なんて見れなくて、俯いた郭哉の視界に桃耶の靴が見えた。そして、頭を撫でられた。
「何考えてんのか丸分かりだな、郭哉。
言っとくが、俺は…『姫』とはなんでもない。ただの友達だったよ」
「…友達」
「うん、そんで…郭哉とは親友だと思ってる。馬鹿なお前に分かりやすく言うなら、お前の方が好きだよ。きっかけは何にせよ、今の俺にとって一番なのはお前だ」
「親友…」
顔を上げると、照れたように頭を掻く幼馴染みがいた。
しかし、急にそれは苦笑に変わって。
決意したような、そんな目だった。
「だから、もう傍観するのは辞めたんだ」
「お前、やっぱり、鬼だった…」
抑揚のない、なのに陰鬱な声が背後から聞こえて。同時に長い腕が絡みつく。
辰壬さんが、俺を閉じ込めるように抱き締めていた。その視線は桃耶を見つめている。
辰壬さんの言った言葉が、ぐらぐらと脳を揺らす。
「鬼……?」
「カグヤ、気を付けて……あいつ、晦のと、一緒だ……鬼だよ…」
また、だ。
桃耶はそんな事を言われても。
いつもの顔で、手を振った。
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