ある夜の秘恋の噺 1 寝っ転がったままじゃ、悪いと思ったのだが千晶さんに片手で制された。 体調も悪い事だし、お言葉に甘えてこのまま話す。 「あの、前から少し思ってたんですけど…… 千晶さんって、俺に関心ないですよね」 俺の言葉に、目を見開いてから。 千晶さんは「ふぅん?」と目を細めて笑った。あ、これもしかして墓穴だったかも。 「そんな風に感じてらっしゃったんですかァ」 ワザとらしい言い方に、俺は慌てて布団を目深に被った。だのに、努力虚しくその布団は引き剥がされて。俺は千晶さんにのし掛かられるような体制で話をする羽目になった。 「……そういう所ですよ」 「へぇ、こんな状況で良く言うね? 好きでもない、関心もない野郎なんかに僕がこんな事すると思う?」 「…どうして」 そんな風に無理矢理に、自分を偽ろうとするのだろう。例えば、辰壬さんに引っ付かれる時は彼は至って本気なのだと伝わる。 無意識の領域での、関心と無関心。 「千晶さんは、俺の事好きでも何でもないでしょう」 分かってるんです。 だから、もうそんな振りしなく…… 「そうだよ」 「だったら、」 「なに?自分が愛されないと不満なの?ねえ、姫」 その、冷たい声音に俺はゾクッとして身をよじろうとして。また捕まった。 衣擦れの音がやけに大きく聞こえた。 「愛されて当然?」 「ち、ちが…っ」 「大事にされてるとでも思ってるの」 追い討ちをかけるように。 低音のまま、千晶さんは俺にそう問い続ける。俺は答えたくなくて、本気で怒っているようなこの人が怖くて。 逃げようともがくのに、その手すら、 床に縫い止められてしまう。 「俺は、そんなつもりで」 「なんでもいいや。もう、ばれてるんだし」 諦めというか、投げやりに。 千晶さんは呟いた。 「やだ、」 「………」 「ヤメ、て」 怖い怖い怖い怖い。 泣きそうになりながら、俺はそう呻いた。 千晶さんは、暫く無言で俺を見下して。 「………なーんちゃって」 ぱちり、と電気を付けてくれた。 一気に緊迫感や恐怖から解放されて。安心で涙が溢れた。 それを見て、慌てて千晶さんは俺を覗き込んだ。 「ちょ、うわ、すみません!まさかそんな泣くとは思わなくて」 「…千晶さ、」 「まぁその、確かに僕は他の人よりはカグヤ姫に対して執着はないですよ。 前世の記憶とやらも酷く曖昧ですし、それに……」 なぜか、俺の顔を見て口を噤んだ千晶さんは「まぁ、色々ありまして」と流してしまった。 しかし、ようやく分かった。 千晶さんに感じていた違和感。 「だから、転生者としての能力も他の人に比べて弱いですし」 肩を竦めながら、千晶は困ったように笑った。 「こんな得体がしれない奴、そばに居るのは不安でしょうに」 [*前へ][次へ#] [戻る] |