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ある夜の秘恋の噺
晦の大将


さて、ところ変わって晦(つごもり)の話をしよう。


煌びやかな花街を連想させるそこは、現世にあるようでない。実に様々な色が入り乱れ、妖しげな雰囲気と魅惑的な人々で溢れている。

人ならざるものたち。


彼らは昔からそうしてきたように、江戸の頃の街中を行き交う。(なんで江戸で止まっているかというと、妖怪にはそのほうが『らしい』からという理由)

姿は様々であるが、場所が場所だけにやはり遊女のような格好が目立つ。


そんな中、ある店では十人ばかりの遊女をはべらせて一人の男がくつろいでいた。


「悠無(ゆうな)はん、今日こそはウチと遊んでくれはるんやろ?」

「いややぁ、悠無はんはウチと…」


きゃあきゃあと騒ぐ彼女たちを眺めながら、金髪の下の双眸を細めて笑った悠無の口には、『鬼』という種に相応しい牙が見えた。

それを見て、一層彼女たちは色めき立った。


「これ、いい加減におし」


ピシャリと言い放ったのは、蛇のような女将だった。
彼女たちは、人間の真似をして遊ぶのが好きだったが、真似は真似である為『遊女』や『女将』は形だけのものである。


『…おいおい、せっかく良い気分だったってのに』


おどけるようにそう言って、悠無は『女将』を見やった。遊女たちも「そうよそうよ」と楽しそうに悠無に乗っかるが、『女将』は呆れたように腕を組んだまま肩をすくめた。


「あんたらは知らないだろうがね、こいつは『晦』の大将さ。おっかない奴なんだよ」


「あら、でもイケメンだわ」

「重要よね!」

「抱かれたい!」

「抱きたい!」

「抱かれ…たい?あれ、なにか変なの混ざってなかった?」



きゃいきゃいと楽しそうに騒ぎ出す彼女たちを、微笑ましく見守っている悠無の隣に『女将』は腰掛けた。


「ほら、聞いたかい悠無。抱かれたいって年若い子らが言ってるよ、さぞかし気分が良いだろうね?」

『よしてくれよ、俺はただあの子らを眺めに来ただけさ』


その言葉に『女将』が眉をひそめる。悠無はただ意味ありげに笑っているだけだ。


「あんた、本当に一途なんだね」

『あぁ、そうさ』


溜め息混じりに『女将』はからかうような口調でそう言ったが、悠無は至って真面目に頷いた。


『今、現世には『かぐや』が居るんでね。あの子が居る間は禁欲って決まりなんだ』

「はぁ、よく分からない理屈だよ」


『なんとでも』


そう言って笑うと、悠無は窓を開けて天を見上げる。
人の世と同じ、月が其処には輝いていた。


「それじゃあ、その『かぐや』には会ったのかい」

『いいや?まぁそのうち嫌でも会う事になるさ。今回は男だって聞いたしな、』

「…は、男なのかい?それなら、別に禁欲なんてしなくても…」


そう言いかけて、慌てて『女将』は口を噤んだ。
悠無の雰囲気が変わったからである。



『…関係ないさ』


まるで、餌を目の前にした肉食獣のような目で。彼は天に手を伸ばし、月を掴むように手を結んだ。



『どんな姿でも、アレはアレだ』


「……」


『こんな気持ちで女を抱いた日にゃ、酷くしちまうに決まってる…。妖怪でも、死にたくはないだろう?』


怯えるように、遊女たちも静まり返っている。


悠無はそれに気付くと、自嘲気味に笑って『だから『かぐや』の事を考えないように遊びに来たのにな』と立ち上がろうとした時だった。



「お邪魔しますよー、ボスぅ」




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あきゅろす。
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