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ある夜の秘恋の噺
気怠い土曜日



さて、社(やしろ)側と晦(つごもり)側の企みやら鈴鹿桃耶の身の上やら、話の本筋が動き出しそうだった翌日の朝。

主人公の郭哉が息苦しそうに寝息をたてていたので、自称出来る家政夫の竜友が恐る恐る体温計で彼の熱を計ったところ―――…


「………」


数字を見ただけで卒倒しかねない体温を叩き出した。






実は、この15年間に病院に行った事などない。


というのも、そもそも保険証やらそういうものもない。(術的な何かでどうにか出来ない事もないが)
それに郭哉が熱を出した事はほとんどないのだ。


「………」

竜友はとにかく、と台所に向かって「滋養強壮滋養強壮滋養強壮滋養強壮…」と泣きそうな顔で冷蔵庫を開く。

そしてまた絶望する。



「調味料しかないだと…!?」

予想外である。
確かに最近客は増えたが(社側と晦側含め)冷蔵庫の中身を把握しきれていないなど、自称出来る家政夫さんが聞いて呆れる―――!!


「こ…こうなったら…」



竜友は意を決した表情で、懐から札を取り出したのであった…。






◇◆◇◆◇



その頃。


激闘を繰り広げた校舎の修復を任された千晶は、昨日えぐられた横腹をさすりながら式を操っていた。


「本当に人使い荒いよねぇ、うちの当主様は……」


いや、この場合アヤカシ使いか?なんて一瞬考えて。
どっちにしてもやるしかない、と諦める千晶は「あぁ、いつの世も人は権力に屈するしかないんだねぇ」と、また式を増やして修復作業を進めて行く。


しかし、ちらりと目を遣れば。

どこか遠くを見つめるような辰壬がベンチに腰掛けているので、
人がせかせか働いてる時にあの野郎!


と軽く苛ついた千晶はわざとらしい喋り方で話し掛けた。



「ちょっとくらい手伝ってくれてもいいんだよー?辰壬くん…!」


「ヤダ、千晶きらい」


「あのさあ!姫の事心配なのは分かるけどね、仮にも社会人なら…」


「……仕事なら、シてる」



無表情だった辰壬の目に、恨みのような感情が見えた。


「裏切り者の、監視」



またそれかよ、と千晶は内心で毒突いた。



辰壬はしきりにそれを口にするが、正直記憶にない。ただ、千年前の事らしいのはなんとなく理解している。
転生する中で、その出来事を忘れてしまったのかもしれない。


その点、辰壬は水竜の化身と成り千年以上を確実に生きて来たらしいので、自分の記憶に絶対の自信を持ってボクを裏切り者扱いするのだ。

正直、千年もよく生きれるよねと思う。

だって、本当にかぐや姫が転生するかなんて分からないのに。



気が狂いそうになるような長い時間を、
来るかも分からない待ち人を待ち続けるなんて絶対無理だなぁと千晶はしみじみ思った。



…と、急に辰壬が立ち上がって空を睨む。

「……ネコ」

「あぁ、本当だ…」


ボクの式達(ねずみ達)が震えている。





どうやら『猫又』がやって来たらしい。




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あきゅろす。
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