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ある夜の秘恋の噺






夕飯の準備をしながら、竜友はふとテレビを見ていた辰壬の姿がない事に気がついて
「大方、郭哉を迎えにに行ったんだろう」
とため息をついた。

ぐつぐつ、と野菜が煮えてゆく音だけがしていたかと思うと。


ふいに、空気が動くのを感じて竜友は振り返った。



しゃん、




たくさんの鈴が重なったような音と共に、保険医の男と鳥仮面の男が現れた。

しかし、別段慌てた様子もなく。竜友は煮物の灰汁取りを続ける。


逆に鳥仮面の男が慌てた。



「ちょっ、おまっ!」



「あはー、鳥羽くんが慌ててるーウケるー」




ケラケラと屈託なく笑う、保険医の男は手に持った靴を指して

「ちゃんと脱いで上がりましたからー」
と、緊張感なく竜友に笑いかける。



「……酷い有り様だな、『鳥羽』」



チラりと視線を鳥仮面の男にやって、竜友は味見にと煮物を小皿にとった。

鳥羽は悔しそうに唇を噛んだが、隣の保険医の男が

「仕っ方ないよーだって、相手は社の当主だしー」

と楽しげに励ましている。


からん、と小皿が落ちた。




「……天生(あまお)が来たのか?」



「おや、流石に驚いてますね?」



「……この前、電話をガチャ切りしてしまったからな…(ガクブル)」


思っていたのと違う返答に、保険医の男は首を傾げながら苦笑いをする。




「まぁともかくー、

鳥羽くんはこんな怪我ですしー、

犬飼くんはその当主サマに捕まってー、

僕はまだ顔が割れてないんで、

引き続き学校に潜入してますからー」


間延びした話し方ではあるが、決してふざけてはいない。




「晦(つごもり)的にはー、

今回はちょっと失敗ですねー。

竜友サマも引き続き郭哉サマの監視お願いしますよー?

うちの頭領はやる気ないんでー」



「…あいつのスタンスは変わらないのか、」


ため息混じりに竜友は割れた小皿を拾い上げて、ガムテープで破片をしっかり取っている。
家庭的すぎる、
という言葉を鳥羽はなんとか飲み込んだ。


へらへらと笑いながら、保険医の男は頷いた。


「悠無(ゆうな)は、郭哉サマが自分で来ない限りは動きませんよー。

ただし…」




何かを想像したのか、保険医の男は少し間を置いてから。




「手の届く場所まで来たなら、もう手放したりはしないでしょうねぇ…」




「…同感だな」








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あきゅろす。
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