ある夜の秘恋の噺 6 うっわ詰んだー、と千晶は思った。それは敵方の『晦(つごもり)』にも言える事だし何より自分たちにも当てはまる。 お忘れかもしれないが、僕らは『社(やしろ)』に支配されているのだ。 そしてあの厨二全開の風貌で、冷ややかに敵方を見つめるクソガキが『社』の当主、社 天生(あまお)である。 ちなみに此処に来るなんて事は聞かされてない。だからこそ焦っていたんだけど。 そんな脳内エピローグ語っていると、クソガk…当主サマに呼ばれた。 「千晶、ずいぶんと顔色が悪いですね?なにか悪いものでも食べましたか」 「げふんげふん!いやぁ、そんなお気遣いなく!ほら僕さっきあの狗に脇腹持ってかれてたので!はい!」 ちくしょう、姫と同じ歳のクセに貫禄が有り過ぎて困る。ついでに言えば、その銀の髪と赤い目が相まって…こいつの方がよっぽど『妖怪』だ、なんて言ったら消されちゃうかな。 ともかく、長い物には巻かれておけばいいや。 僕はまた営業スマイルで、当主サマの言葉を待っていた。 しかし、空気を読んでか読まずか敵方の狗が当主サマの首を噛み千切ろうと獣の姿で襲いかかる。 あぁ、 馬鹿だな。 「…身の程を知りなさい、妖怪風情が」 ぱん、と祈るように手を合わせて。当主サマはニコリと笑った。嫌悪感を隠そうともしない笑みに、背筋が震える。 キャン、と悲鳴のような声が上がり。狗の体に幾つもの術が展開し、彼は人の姿に戻り倒れた。 鳥の面の男は、激情に任せて叫んだかと思うと。 「犬飼、待ってろよ絶対に…っ」 と言い残して、姿を消したのだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |