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ある夜の秘恋の噺




焦った千晶の前に、郭哉を抱えた桃耶が現れた。


「…ちゃんと見てて下さいよ、『先生』」

「…はは、銃刀法違反が何を偉そうに…」

教育実習生のタグも、スーツも自らの血でぐっしょりと濡れた千晶を見下ろした桃耶は、不敵に笑んだ。


「…頼みますよ、俺にはどうしょうもないんだから」



実に悔しそうに、愚痴を言うように、彼は呟いて後ろを振り返った。



「気は済みましたか?」



「…るっせぇよ、クソガキがぁっ……!」

がらがら、と瓦礫から抜け出してきた烏面の男はかなりダメージを受けたようで足取りはおぼつかない。

「…クリーニング代…いや、新調しないと…」

狗の姿から、人に戻ったらしい獅子頭の青年は自分の制服を見て悲観的に呟いて、烏面の男を支えた。

「やめろや、犬飼っ!ひとりで…」

「鳥羽さん自覚して下さい、僕らは無益な争いは避けろと言われていたはずです…」



その割には、ばっちり戦闘こなしてたじゃあないか。と、千晶は舌を出した。


鳥羽は言葉に詰まりながら、悔しげに桃耶を睨んでから……眠る郭哉を見た。


「…あの人を、置いていくのか…?『また』…?」
苦しそうに震える声に答えるように。犬飼は首を振って、千晶を見た。



「…社の人。あなた達はまた繰り返す気なのか、千年もかぐや姫を捕らえたまま。そして今回のかぐや姫も…」





「黙りなさい、畜生どもめが」


ざわり、と空気が騒ぐ。
澄んだ声が殺気と威圧感を孕ませて、この廊下に響き渡った。

桃耶も、千晶も背後を振り返って…唖然とする。




そこに立っているのは、平凡な…むしろ搾取される側の人間であろう。頼りない少年だった。

確か、郭哉は『アーくん』と呼んでいた。




だのに、この悪寒はなんだというんだ。


彼はおもむろに、頭に手をやって髪を掴み…それを投げ捨てた。黒いボサボサとした髪の下からは、反対に白い髪が覗く。


眼鏡も取り払うと、人とは思えない真っ赤な眼が静かに周りを睨んでいた。



千晶が青ざめて、口を開く。




「と、当主様……っ」





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