ある夜の秘恋の噺
4
「〜〜いったぁっ!!臓物!なんか出るんじゃないかコレ…っ」
「お待ちかねの15禁ですよ?」
「読者さんが望んでんのは、断じてそっちじゃない!」
冗談言ってる場合じゃないよ!と、千晶は横腹に牙を立てる馬鹿でかい狗を自力でどかそうとするが、びくともしない。
「離して欲しいんですか」
「当たり前じゃん、いったいわボケぇえぇぇっ!」
「でも離したらスプラッタですよ」
「是非とも噛んだままで!」
ぐらぐらと、頭が痛くなる。
いや本当に痛いのは噛まれている横腹だろうけど、軽く象並みの大きさの狗が深々と牙を突き立てているなんて信じたくない。直視したくない。
噛まれたまま床から持ち上げられて、ぶらぶらと足が揺れる。あぁぁやばいかも。
「降参します?」
「…っそれは、しない」
「では、死にますか」
「それも御免だね!」
くぅん、と可愛らしい声をあげる狗に千晶は自嘲ぎみに笑った。
「今更…、」
「わん?」
「ごめん、君の事じゃないよ…
…僕の『式』が、さ」
こんな、横腹持ってかれそうな状況でも。人は笑える、そして勝とうと画策できる。
すぅ、と獣の目が細まった。
「…鼠ごときが」
「見くびるなよ、ワンちゃん。彼らは『根の国』から来た立派な式だよ。――…その昔、鼠は地の底よりの使いとされていたのさ」
学校の廊下に、突如として深い闇の渦が出現する。そこから、赤い眼が百…千と瞬きながら湧き出してきた。
ちゅう、ちゅう
と高い鳴き声に、狗の姿であるはずの犬飼は身震いした。
千晶をくわえたまま逃げようとするが、既に足元を埋め尽くした鼠が這い上がってくる。
「……生理的に無理…」
諦めたように、犬飼は千晶を放り投げて遠吠えを始める。
しかし鼠たちは臆することなく犬飼を襲い、象並みの狛犬を覆い隠してしまった。
「…っ、きっつい…」
じわじわと、染み出す血を抑えながら床に座り込んだ千晶は息を呑んだ。
かぐや姫は、
「…姫っ!」
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