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ある夜の秘恋の噺
飯>>>>>非日常


それは、冬も近づく秋の暮れ。


学校の帰り道の閑静な住宅街で、郭哉(かぐや)は『非日常』というものに出くわした。
身を斬るような寒さに、マフラーとコートに身を包んだ彼は、近くのコンビニで買ったおでんを食しながら、


得体の知れない、男達に追われていた。







(温かいうちに食べないと勿体無い…)

見事な逃走劇を繰り広げる彼は、無心ではんぺんを口に運んだ。ふわりと香る鰹ベースの出汁が口の中を支配した後、もちもちのはんぺんを咀嚼する。

「…!?ダシが、去年と違う…だと…!?」

喉を通過したはんぺんに思いを馳せながらも、進化したおでんのダシに感動する郭哉。
無表情ながら、目を輝かせて次はこんにゃくに箸を進めた。




一方、そんな郭哉を追うスーツ姿の男達は全速力ではあるが、


「(な、なんで追いつけないんだ…)」



それを上回る速度で、郭哉は逃げ回っておでんを食べているのである。


「…卵はもう少し味を付けた方が好みだな」

片手で器用に、練り辛子を卵につけて箸で掴みあげる。



(…あぁ、至福の時だ)


幸せを享受する、郭哉の後ろでは―――過酷な鬼ごっこにより肉体的にも精神的にもボロボロな男達。


「俺…もうダメだよ…!」

「立て!立つんだスーツA!くそぅ…おでんの野郎良い匂いで俺たちの食欲をそそる気だな!こうなりゃ、俺もおでんを…」

「行くな!スーツBぃいい!自分の仕事を忘れたかぁあ!」


「離せ!離せよっ!このままじゃ、スーツAが…離せよぉおぉぉ!」






「…ごちそうさま」

地に崩れ落ちた、スーツ達を尻目に郭哉は手を合わせた。
スープの一滴も残さないで食べきったおでんの空箱を自分の鞄にしまって、やっとスーツ達の方を確認した。



「………腹、減ってるのか」



「「「……」」」


彼に悪気はない。
寧ろ今まで、野生の勘的なもので逃げ回っていたのだ。

俯いたスーツ達を見回して、郭哉は「…うちに来るか?」と尋ねた。


捨て犬のような目で、スーツ達が見上げると。



「…うちの家政夫の、鰤の照り焼きが待ってる」

と、写真付きのメールを見せながら。



誰もが一目で惚れてしまいそうな、甘い笑みを浮かべた。



(…なんなんだよ、あの子)

(俺、一生付いてくわ)


(おでん食いたかったなー)



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