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ある夜の秘恋の噺




「いやー、憧れてたんだよねぇ!なんか古い感じの詠唱的な奴にさー?でもほら、正直な話さ大二病?とか言われたりなんかするから自重してたんだけど、」

「千晶さん今は緊急時なんで、シリアスモードでお願いします」

「おっけー、姫」



けらけらと笑って、千晶さんはまた二人組を見やった。周りの風景は何故か暗い水面に桜が咲き誇る、幻想的な場所になっていた。空には金色の満月が出ている。

いつの間にこんな所に…!?てか校舎は何処行ったんだ。


「これは、社(やしろ)固有の結界なんだよねー。社家の血を持つ者は自由に動けるけど、晦(つごもり)連中には辛いんじゃないかなー?」

真っ黒な水面に、俺と千晶さんが映った。ハズだった。

「…?だれ…だ…?」


水面に立つという、忍者好きにはたまらないシチュエーションだけど、それさえぶっ飛ぶような事がある。
美しい、着物姿の少女が其処に居た。



「…まさか、かぐや姫…」

「そうですよ、姫。社の結界の中では、全てが本当の姿になる…ほら、僕を見て下さい?」


いつの間にか、千晶さんも着物姿になっていて。面影は千晶さんだけど今の千晶さんより大人だった。…待て、つまり俺は今…女の子、


「…あぁ、かぐや姫…!」
「ちょ、ダメです千晶さん。びっくりしたぁあ!たった今シリアスモードっつったろーが!」


ぎゅう、と抱きしめられると安心したが。仮面の二人が呆れた様子で此方を見ていたので慌てて体制を立て直した。


「…んで、晦(つごもり)てなんですか?」

改めて尋ねると、千晶さんは意味深げに笑って「敵だよ」と切り捨てた。

「…失礼な奴だな、社(やしろ)千晶?」

「あれ、違ったー?少なくとも晦と僕らは仲間じゃないでしょう?」


鳥の仮面の人は舌打ちをし……

「あわわわ、千晶さん…!」

「どーしたの、姫?」


鳥仮面の背中に、真っ白の翼が…!天使化?!ひぃいい!

「あー、あれは多分烏(からす)の妖怪だよ。あっちの狗は、どっかの狛犬だったんじゃないかなー?」


とても冷静に、むしろ楽しげに。千晶さんは二人を見やって笑う。その視線があまりに冷たくて、俺の背筋は凍りついてしまいそうだったんだけど。

また千晶さんが、俺を抱きしめて何も見えなくなった。


「大丈夫ですよ、姫」

「…なに、するん…」



「…言いましたよね、僕らも。結局は異形のモノとなり果てたんだって。
…だけど、貴方には見て欲しくない……だから、こうしてて下さいね?」

「千晶さ、」



俺が何かを言う前に、千晶さんは俺の首筋に歯をたてた。

「…少し、借りますよ」

「…っ!」



ざわざわ、と寒気に襲われた。だのに噛まれた首だけが、酷く熱い、熱い、熱い…



「…おい、お前…かぐやに傷を付けたな…!?」

鳥面の人が激高したように叫んだ。いったい何なんだ、もう。

「…手を離したのは、晦でしょうに?」

くつり、と笑って。
千晶さんは何かを振り回したようだった。ざく、ざく、と断たれる音がしたけれど。怖いから耳を塞いだ。嫌だ、嫌だ…!




「…っう、…!其処まで堕ちて、かぐやを離さないつもりか…っ!」

鳥の人の、苦しそうな声の後。千晶さんの片手が俺の耳を塞いだ。音が、遮断された。



「      」


「っ、この…っ!お前らには、誇りはないのかっ!?外道め…っ!」


叫び、

血の匂い、


怖い、


「…と…トウヤ…っ」


此処に、トウヤが居たら良かったのに。そしたら、


そして、限界だったらしい俺の意識は遂に途切れてしまった。

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