ある夜の秘恋の噺 アー君の素顔 えっと、現在の状況を確認しよう。 シューパイ目当てで学校来て、買い占められたシューパイをアー君(初対面)に恵んで貰って、それで? なんで俺はアー君にキスされてんのかな。 ◇◇◇◇◇ 「……っ、」 呆然と保健室の天井とアー君のボサボサ頭を眺めていたのだが、流石にパニクった。 え、おかしいよね? しかも深い方とか、 なんなの、 「…っ、アー君…!」 「あれ、起きてたんですか?」 「起きてた!起きてたからもう止め、ふぐっ!」 おぉおい!ふぐって言っちゃったよ、なんでってそりゃ、アー君がまた唇塞いで来たから。 わけ分かんない、 なんで楽しそうなの、 必死に抵抗してるのに、もともと熱が有った体は思うようには動かなくって、 アー君の細い体のどこにそんな力が有るんだよって位に、俺はベッドに縫い止められていて、 「はっ、苦し…っ」 反射的に涙が出て、酸素を求めて息をする。 それを、俺の顔の近くで見つめるアー君が見えて一気に血が引いた。 「……赤、」 「…そう、珍しい眼でしょう?カラコンとかじゃないですよ、この眼は……」 いや、確かに血の色みたいな眼にも驚いたんだけど。 俺が本当に、身震いするほど驚いたのは、 酷く冷めた眼と、 恐ろしい位に整った顔だった。 中性的で、猫のような眼で、触れたら壊れてしまうような、危うさがある。 「アー君…」 「はい、なんでしょう?郭哉…」 「さ…触ってみていいですか…」 にっこりと笑った彼の表情が、俺の言葉で崩れた。 「…良い、ですけど」 「眼鏡、外して良いですか」 「あの、郭哉……?」 俺は何故か、押し倒されたままの状況で彼の瓶底眼鏡を外して、彼を凝視した。 驚いたように瞬く瞳と、赤み差した頬が、あんまり綺麗で。 「いいなぁ…」 俺は普通の黒髪に、茶色の眼だから。 頬に触れてみたら、アー君は困惑した表情で俺の手に重ねるように手を置いた。 「……やっぱり、貴方には叶わないなぁ…」 くしゃり、と顔を歪めるアー君は俺の首元に頭を押し付けて、懐かしそうに呟いた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |