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ある夜の秘恋の噺





*****


あぁ、またか。
また千年前の『かぐや姫』の記憶に沈んでいくのか。



幽体離脱でもしたみたいに、自分自身…というか『かぐや姫』を見下ろす俺は、頭を抱え込んで唸った。


「だいたい流れは分かったから…!もう…辞めてくれ…」


知ってるんだよ。
俺は、『かぐや姫』は、


「……ころされちゃうんだろ」

自分の声とは思えない程、震えたか細い声に思わず喉を抑えた。小さく、わらう。



どうやら、呑気に暮らしている頃らしい。かぐや姫は、格子窓越しに誰かと話していた。

こんな夜更けに、一体誰だ?
前回の逢い引きしていた相手にしては、声が若い。


意識を集中して、何を話しているのか聞こうと目を閉じた。




『…そう、それでは暫く逢えぬのですね…』

かぐや姫の落胆した声に、格子窓の向こうの相手は励ますように話す。

『心配召されるな、そなたの周りにはじじ様やばば様がおられる。我ら、人の子とは違えど…かぐや殿は間違いなくじじ様とばば様の子。なれば、これまで通り良き娘であればいいのだ』

言葉の語彙が古めかしいが、だいたい意味は分かった。
しかも、人の子ではないと言っていたのでかぐや姫に近い存在なのだろう。

『……彼の、鬼巣くう島へと行かれるのであれば……私の血を、』

『それは、ならぬ』

ん?鬼巣くう島?

何かが頭の隅に引っかかった。聞いた事あるような、


『ですが私の血には、不老長寿の…』

『要らぬと言った、……かぐや殿…安易にそのような事を申されるな。
人とは強欲、人とは情深き者、故に他に対して無情にもなりえるのです。
ですからどうか、かぐや殿…。
貴女の血が不老長寿、万能薬であろうとも、決して他に教えてはなりませぬ』

諫めるように、心配するように、若い声はかぐや姫を諭す。
しかし、かぐや姫は不服そうに眉をひそめていた。


『それに、おなごの施しなぞ受けれるか』

そう言って、若い声は切り捨てた。
クスクス、かぐや姫が笑う。



「こんな時間も、あったんだな…」


後に起きる事のインパクトが強過ぎて、忘れそうになってたけど。悲しい事ばかりではない。

だからこそ、


「…かぐや姫…」



幸せを、願う。
過去であっても。
御伽草子であっても。



*****


「……っぅ、」

息が苦しくて、俺は現実に引き戻された。


目を開くと、ボサボサの髪と冗談みたいな瓶底眼鏡が見えて、あー君だろうと認識する。

と、同時に。

「……っ!?」


その、あー君に唇を塞がれているのですが。

それこそ、冗談だろ?






【了】




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