ある夜の秘恋の噺
恵んで下さい
「ちょっ、ごめんトウヤ……行かねばならぬのだ」
「いきなりどうした」
「ええい、離せ…っ!俺はうっかり発見してしまったのだ。たった今、中庭をシューパイ買い占めたビニール袋ぶら下げた生徒が歩いて行くのをな…っ!」
「…それで、どうするんだよ」
呆れたように呟いたトウヤに、俺は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「全力でお願いして恵んで貰う!」
「ほんっ…とにお前は…!」
がっくりと肩を落とす友人の背を、励ますようにポンポンと撫でて。俺は颯爽と駆け出した。
◆◆◆◆◆
何も知らない男子生徒が、建物の影に差し掛かった時だった。
「待ちな…!」
「ふぇ?」
全力疾走してきた郭哉が、刑事ドラマよろしく逆光になって壁に寄りかかっていた。
明らかに同様する男子生徒。
「ここを…っ、はぁ…!通し、っげほ!」
「だ、大丈夫ですか…」
「あ、大丈夫です…ありがとう…」
気を使われてしまった。
なかなか気遣いの出来るいい人じゃないか。
「あの、まだ続くんですかね…?」
控えめにそう聞いてくるので、なんだか恥ずかしくなってきた。今更とか言わないで欲しい。俺は必死だったんです。
「…や、あの…」
「よろしければ、あそこのベンチに座りませんか?…その、体調悪そうですし…」
本当に気遣いの出来る人だ。
◆◆◆◆◆
結局俺は、言われるがままに陽向のベンチに腰を下ろした。
男子生徒は背は高いのにやけに細くて、シューパイをあんなに食べれるとは到底思えなかった。
「えっと…、なんかすいません。シューパイ分けて貰って、」
「大丈夫ですよ、たくさんありますから」
ボサボサとした黒い髪に冗談みたいな瓶底メガネの彼は、見た目に反して本当に良い人だった。
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