ある夜の秘恋の噺
1
結局、俺はその他の授業を眠って過ごしていた。
後で聞いた話によると、桃耶が教科担任にわざわざ説明してくれていたらしい。ありがたや。
が、しかし。
「……っ、シューパイっ!」
数えていたチャイムの音で、飛び起きた俺は倦怠感に打ちひしがれながらも、廊下を駆け抜ける。
遠くで桃耶が「危ないって!」と叫んでいるがそれどころじゃないんだってば。
この曲がり角を曲がれば、購買のある道に、
「わっ、と」
「…っ!!」
ぼふん、と。正面から誰かの胸に飛び込んでしまった。
…ん?胸?
こんな高い位置に胸って事は、先生?
慌てて飛び退こうとすると、何故か肩を掴まれて顔を覗き込まれた。
気まずいながらも、その顔を確認すると、
「……あ、千晶…さん」
「やっぱりカグヤ様じゃん、大丈夫?お怪我は…」
いやいやいや、
「なんで、千晶さんが此処に?まさか陰陽術的な…」
俺の考えを撃ち砕くように、千晶さんは吹き出して「可愛いなぁ」と頭を撫でてきた。辞めてほしい。恥ずかしい。
そして、何やら首に掛けていたらしい証明書を見せつけられる。
「今、実習中なんだよね。ほら僕一応教職に就きたい人だから?」
「…教育実習生、ですか」
言われてみれば、スーツ着てるし。この人大学生って言ってたし。納得納得…
「…でさ、カグヤ様?」
「……はい、?」
「なんで急いでらしたんですっけ?」
千晶さんが笑いながら俺に尋ねる。一瞬、訳が分からなくな……
「……はっ!」
俺のシューパイ…!
千晶さんをよけて、購買を覗き込むと。
売り切れ、の文字が「いや見えない見えない見えない見えない」
「カグヤ様怖いんだけど!大丈夫?なんか熱っぽいし〜……保健室連れて行きましょうか」
何故に耳元で囁く…!
「耳っ!遠くない、まだ!」
「そういう意味じゃないんですけどねぇ」
残念そうに笑わない!
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