ある夜の秘恋の噺
勉強しようか
場所は打って変わって、
学校。
郭哉は机に突っ伏したまま身動きをしないので、周りの生徒は何事かと彼を見ているが授業が始まってしまえばそんな事は関係なかった。
古典の、お爺ちゃんみたいな先生が眠くなるような声で話をしているのを、郭哉は耳だけで聞いていた。
「受験勉強は家でするもので、学校はカリキュラムを達成する為に授業を進めます」
生徒からのブーイングをシカトして、老教師は黒板に『竹取物語』と書いた。
思わず、ピクリと反応してしまう。
「えぇ、竹取物語は作者・成立年未詳の口承文学として語り継がれ、」
…実話ですから、ね。
なんて心の中でひっそりと思う。
なるほど、珍しく爺ちゃん先生の話を聞いてると他人事じゃない為頭に入ってくるではないか。
――姫を求めた、五人の貴公子。
石つくりの皇子、
くらもちの皇子、
右大臣あべのみむらじ、
大納言大伴のみゆき、
中納言いそのかみのまろたり、
――さらには、帝。
「モテモテやないかー…」
ひとりツッコミしながら、かぐや姫がその貴公子達に無理難題を出すあたりで、
竜の頸の玉、
というのがどうにも引っ掛かった。
「…まさか、辰壬さん…」
いやいや、まさかね。
けれど、そうだ、彼らは言ってたじゃないか。
――待ち続けた、
――人ならざる者になって?
そんなに、思ってくれているのに。『かぐや姫』の俺が彼らをすっかり忘れてしまっているのはどういう訳だろう。
しかも俺、男だし。
「…報われないな、」
そう、呟いた俺の隣で。
「………」
桃耶が険しい顔で俺を見ていた事なんて、知る由もない。
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