ある夜の秘恋の噺
1
クスクス、と受話器越しに聞こえる笑い声が脳内を巡る。そして意識が朦朧とし、手から受話器が滑り落ちるかという時だった。
「…辰壬、」
「たつ、とも」
竜友の白くて綺麗な手が伸びたかと思うと。
「…学習教材は要りませんっ!」
「え」
ガチャン!
……。
「…今の、当主さま…から」
「……まじか」
二人して、青ざめる。
「ど、どど…うしよ、当主さま怒っ…いや、それより竜友…」
「うるさい、黙れ、電話線を抜けば大丈夫だ」
がくがくぶるぶるしながら、竜友が電話線を引っこ抜く。
「だいたいな、長電話し過ぎだ…!受話器持ったまま数ヶ月過ぎたぞ…!」
「それ、は…現実世界の更新が」
「とにかくだ!」
イライラしたように、竜友が声を荒げて台所に向かって行ってしまった。
オレは、唖然としながらも何だかホッとした。
「…当主さま……」
あの人は、恐ろしい。
けれど、いずれ郭哉をあの人のもとへと連れて行かなくてはいけない。
そうしなくては、郭哉は『また』居なくなってしまう。
「…かぐや…」
居なくなるのは、嫌だけど。
当主様は郭哉をどうするつもりなのだろう。
『帰せない』ようにしてしまうのかな。
「それは、当主がお決めになる事だろう」
またオレの心を読んだらしい、竜友はあっさりとそう返事をしたけれど。
なんでか、そう言った竜友も嫌そうな顔をしていた。
◆◆◆◆◆
「酷い仕打ちですね…」
暗い和室で、今はあまり見かけない黒電話を楽しげに見やる男がひとり。
暗がりに、血のような赤い目が浮かび上がっている。
「…『外』は随分と楽しいみたいですね、辰壬…けれど、」
それも、あと
ほんの少しですよ?
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