ある夜の秘恋の噺
3
熱のせいで滲むようにぼやける、見慣れた通学路を俺はフラフラとしながら自転車をこいでいた。
だって今日シューパイの日なんだってば、
俺にとっては死活問題なのに、後方から普通に走って来たトウヤが自転車の荷台を掴んだ。
「はーい、そこの暴走自転車止まりなさーい」
「離せよトウヤー!馬鹿ー!…いや、頭いいから馬鹿ではないな…」
「悩むなよ、馬鹿」
否定出来ない。てかトウヤに馬鹿呼ばわりされて反論出来る人はうちの学校には居ない。
学年トップって凄い。
結局、熱が祟って俺は自転車から下ろされて。
これはお家に返却されるかなと思ってたら、トウヤは何も無かったように我が物顔で自転車に跨った。
まぁトウヤの自転車だけどさ。
置いて行かれるのだろうか、と些か不安になってしまった。
しかし、
「ほら、乗れよ」
「…え、」
キョトンとした俺の腕を取ると、無理矢理荷台に俺を乗せた。「ちゃんと捕まってろよ」とくしゃりと笑ったトウヤを見て、やっぱり『こいつ、出来る…!』と思ったのは内緒だ。
俺よりずっと大きな背に、額を押し付けるようにしてくっ付いた。
「…やっぱり熱いなァ、辛くねぇか?」
「…シューパイ…」
俺が、うなされるように呟くとトウヤが笑うのが背中越しに伝わって来た。
「そっか、まぁ…あんま無理すんなよ、」
「ん…」
最悪、授業なんて寝ててもいいのだ。義務教育万歳。
寒いはずの風は、トウヤにぶつかって俺には届かない。
まるで守られてるみたいだ、と思ってから。
ずっと守られてた、と思い出した。
「…トウヤぁ…」
「うん?どうした?」
「……」
「郭哉?やっぱ無理そうか?帰るか?」
俺は、トウヤの背にしがみついたまま首を振った。
違うよ、馬鹿。
いつも俺は守られてばかりだった。
竜友にも、
トウヤにも、
だからこれから、進学して安定職見つけて、少しは恩返しになるだろうか…と考えていたのに。
かぐや姫がどうとか、
殺されたとか、
もう俺は、日常には戻れないのかな。
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