ある夜の秘恋の噺
2
「トウヤー俺を連れ出してー!主に購買へー!」
「すまないな、桃耶君…見ての通り郭哉が見事に熱を出してしまって」
「あー…はい、声聞きゃ分かります」
玄関先で俺抜きで交わされる会話。毎朝一緒に通うので、一応寄ってくれたらしい。しかし、俺はなんとしても行かないと行けない。
「シューパイ食えるのもあと何回かも分からないんだからな…!」
そう、俺は中三で季節は秋だ。金曜日限定シューパイはあと何回食えるって話だ。
「気持ちは分かるが大人しくしとけよな郭哉ーシューパイなら買ってきてやるから、」
「無理です、出来たてが上手いんだパイ系は!」
「その情熱を少しだけでも受験に向けてくれると幼なじみ的には安心するんだが」
呆れたようにため息をつくトウヤの前に、ずかずかと歩いて行く辰壬さん。その目は敵を見るような鋭いもので、一瞬空気がぴりっと張り詰めた。
対するトウヤはいつもと同じく「あぁ、おはよーございます」とどこか挑戦的に笑った。
「……おはよう、」
意外にも。辰壬さんはきちんと挨拶を返したが、相変わらず睨みつけながら身構えている。
「あんたは、風邪引かなかったんすね?」
「……関係、ない」
「そりゃそうだー…、で?何か用ですかね?」
「……お前、」
飄々としたトウヤに、辰壬さんはイラついたように歯を食いしばっていたが。
「…隙ありっ」
急に飛び出していった俺に驚いたのか、結局何も言わずに立ち尽くしていた。
トウヤは自転車通学のため、俺はその自転車を拝借して学校へ向かう事にしたんだが。
あれ、なんか天地がひっくり返りそうだ。
結構、ヤバい?
***
そんな様子を、とある屋根の上で眺める人影が三つ。
「ねぇねぇ鳥羽くん!今の見てた?『今回のカグヤ姫』も面白いみたいだねぇ」
「……いや、自分興味ないんで」
「バイト代ちゃんと払って下さいよ?」
「わお、犬飼くんってばがめつーい」
「がめつくもなりますよ、こんな恥ずかしいかっこさせられるなんて、」
そういう少年は、学生服に獅子舞のような仮面と布。
鳥羽と呼ばれた青年はフード付きのパーカーに鷲の面。
「やれやれ、昨今の若者は軟弱だよねぇ。コスプレだと思って楽しめばいいんだよ」
そう言ったのは、狐の面の黒いコートの男で楽しげな声で語り続ける。
「僕らは悪役(ヒール)なんだからそれっぽく行こうよ、ね?」
仮面の下にも、楽しげな笑みを浮かべて。
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