ある夜の秘恋の噺
3
ほら、今日1日でなんかカグヤ姫がどうだとか喰うとか喰われるとかそんな話ばっかするから、
こんな嫌な夢見るんだよ。馬鹿やろー。
***
それはもう、昔話に出てくる家ってかんじの家で。俺は俺であって俺じゃなくて、綺麗な色の布の着物を重苦しく着てる訳だ。
爺さんと婆さんもいるし、こりゃもうあの話なんだろうな。
それで、男目から見ても美形な男達が俺の前に次々やって来る。だけど結婚する気はないから、無理難題を押し付ける。
ここまではセオリー通りだよな。
だけど、場面は急に変わって。俺は夜の竹藪にいた。
さらさらと音をたてる笹の葉がまるで、ヒソヒソと噂を立てるように。
俺と、もうひとり誰かを見ている。
高く伸びた竹の合間から、金色の月がその人物を浮き上がらせている。
『貴女を、愛している』
『……っ、』
真摯な言葉に、カグヤ姫は口を噤んで彼を見上げている。
カグヤの目から、ひと筋の涙が流れていく。
『…しかし、貴女は皆が手を伸ばしても無理難題でそれを拒むのだな』
『……、』
『私とて、その男共と変わらぬ……しかしこうして逢い見える事が叶うのは、……多少は自惚れていいのだろうか』
月に負けない程に、美しいその男はカグヤを静かに抱きしめた。
俺の中に、カグヤ姫の感情が流れてくる。
愛しい、
悲しい、
苦しい、
あぁ、そうか。
この恋は叶わない。
何故なら彼女は、帰らないと行けないから。
『月』に。
また場面が変わった、
先ほどの優しくて悲しい雰囲気はなく。
まるで悲鳴と怒号が空気を支配してしまっていた。
『不老長寿の妙薬を、』
『流行り病があの方を、』
『打つ手はないものか、』
人々が呻くように話し合っている。
そして低い老爺の声が響く。
『人成らざるものの身を、食らえば我らは生き長らえらる』
『誰ぞ知るものは、』
『この世のものとは思えぬ、者がひとり』
『誰ぞ、』
『名は、』
『…カグヤ姫』
***
それからは、分からない。
覚えてないんだ。
ただ、俺は泣き叫びながら飛び起きて。
辰壬さんが俺を抱きしめながら落ち着かせようとして、でも暴れる俺に竜友がココアを淹れてくれて、
やっと、息をできるようになった。
「カグヤ、大丈夫?カグヤ…」
「止めて、くれ…!」
辰壬さんが、息を詰まらせて慌てて謝る。でも聞きたくないんだ俺の名前も、彼女の名前も、
月に帰ったんじゃないのか、
なぁ、
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