ある夜の秘恋の噺
痛いってば
とにかく、だ。
「落ち着きましょう、辰壬さん」
「カグヤ、」
すがりつくような目で俺を見つめる辰壬さんの腕が僅かに緩んだ。肺が広がって、息をつく。
「…その、昔のかぐや姫がどんなのかは知らないですけど、俺は男ですし、そう簡単には死んでやる気もないですから、だから」
「前も…そう、だった」
……うん?
「前も、カグヤは男で…カグヤは死なないって言って…けど、喰われて、しまった…の」
「ちょ、聞いてないですよ食われるなんて、美味いのか俺?」
別に興味ある訳じゃないけど。つまりどういうこと?
「その前も、前も、前も…」
「待とう辰壬さん、説明をちゃんと…」
「月に帰る前に、」
また、腕の力が強くなり。辰壬さんの目が獣のように感じる。そして、俺の首に彼の息がかかったかと思うと。
「…っぁあっ!」
鈍い痛みが走って、俺は呻いた。
痛い、熱い、
彼の歯が、舌が俺の首に当たっている。そして血の匂いに気分が悪くなる。これは昔からで、理科の解剖もぶっ倒れるくらいだし、この前も辛かったけど、此処は個室だ。空気の逃げ場もない、
「どうして、帰るの…!」
思いっきり、噛みつかれる。
けれど、まだ理性ある俺はなんとか声を抑えようとこらえる。
もうやだ、痛いし、血の匂いはするし。
辰壬さんは俺を見てるようで見てないし。
「どうしてっ、」
「た、辰壬さん落ちついてっ」
「こんなに、好きなのに…っ!!」
悲痛な叫びだった。
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