君がための愛を!
わかぬまに
置いてぼりの疎外感に浸る前に。
ひょっこりと蘭丸くんが此方を伺うように顔をだしてきた。その事に驚いたけど、蘭丸くんも驚いているみたいだった。
まんまるの、黒眼がちな目が見開かれたかと思うと。たちまちその頬が真っ赤に火照った。
「なっ、なに見てるんだよノロマ!信長様がお前の為に宴を開くって言ったんだから、お前も準備するんだよ!」
「……う?」
早口で、まくし立てるように言われるとよく分からない。
多分怒ってるのかな、と思うと怖くなったけれど。
蘭丸くんは「仕方ないなぁ!」と私の手を取った。
織田社長と違って、小さな…けれど指には何か擦り切れたような痕がある。
「…お前、蘭丸より小さいな…歳は?」
「……、」
覚えていない。
答えない私の手を握ったまま、彼は屋敷の中を迷わず進んで行く。
「……信長様が、お前を娘だって言った。だから、お前は蘭丸の妹なんだ!」
「…ん、」
「なんだよ!返事出来るんじゃないか!」
じゃあなんでさっきは答えなかったんだ、と彼は頬を膨らましたが少し足を止めただけで、すぐ動き出した。
***
「ほら、風呂」
「…っ!?」
「逃げるな!」
がしり、と肩を捕まれて逃げ損なう。嫌だ嫌だ。風呂なんてまともに入った事は無いが、水怖い服脱ぎたくない、嫌だ嫌だ嫌だ。
バタバタと足を動かす私を、蘭丸くんは使命感からか「風ー呂ー!」と、叫んで服を脱がせようとする。
「暴れるなよ!遠梨っ」
「うぅ…っ!」
そんな格闘を繰り広げる私たちの騒ぎを聞きつけたのか、秘書の濃姫さんがやって来て。
結局、私は風呂に入れられたのであった。
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