君がための愛を!
ゆきあひて
どうやら、頼んだ備品や夕飯の支度やら学校の宿題やらでこの館の住人達は散って行ってしまったようだ。
まだ空っぽの部屋で、遠梨は呆然としていた。
その時だった。
「キィッ」
「…!き…?」
もふもふとした毛玉のような小猿が、部屋の入り口に居るではないか。驚きながらも、なにぶん初めて見たので遠梨は恐る恐る近づいて、手を伸ばす。
小猿は、伸びてくる遠梨の手を大人しく見つめている。
「……ぁ、」
けれど、こわい。
昔に猫を撫でようとして、ひっかかれた事がある。
ぴた、と動きを止めて遠梨はじっと小猿を見つめた。
目が合って、不思議な気分に浸っていると突然声が降ってくる。
「大丈夫だよ、」
「……っ!?」
いつの間にか、執事服を着崩した青年が遠梨を見下ろしていた。
人懐っこい笑みに、なんだかホッとしながら。遠梨は『夢吉』とその青年を見比べて首を傾げた。
「夢吉は俺の友達だからさ、噛んだりしないよ」
「……」
キョトンとする遠梨に、青年はもう一度言い聞かせるようにそう言う。
その後、少しだけ不安そうに彼は首を傾げる。
「えっと…、分かるかい?」
「…ん、」
言葉は分かるので、頷けば。
そいつは良かった!と、青年は笑って夢吉を手のひらに乗せた。
「キィッ!」
「うん、夢吉もアンタと友達に成りたいってさ……アンタはどうかな?」
ともだち?
「……?」
よく分からない言葉だった。
けれどなんでか、
胸がむず痒いような感覚に陥ってしまう。
きっと悪い事じゃない。
青年の手の上で、夢吉は待ってくれている。
遠梨は、今度こそ夢吉に触れた。
「……!」
ふわっとして、暖かい。
小さな手が、遠梨の指を支えるように伸びる。可愛らしいつぶらな瞳が見上げてくるので、遠梨は思わず微笑んでいた。
それを見ている青年も、笑む。
ほのぼのとしていると、
「慶次っ!夕餉の支度がまだ済んでおりませぬっ!」
「げっ、なんでバレたかねぇ」
ぱたぱたと、まつさんがやって来て遠梨と慶次とを驚いたように見比べる。
「遠梨殿、この子が何かいたしましたか…っ!慶次っ、女子と見ればちょっかいを掛けてっ!」
「誤解!誤解だよ!?まつ姉ちゃん!いくら俺でもこんな年端も行かない子に手は出さないよ…」
「まぁああ!では、遠梨殿が年頃の娘であったら手を出すと言う事ですか!」
「そりゃあ、この子将来有望だから手は出すよ……
「見損ないましたよ慶次!」
っ、いや!今のは誘導尋問じゃないかい!?」
もの凄い形相で、まつさんが怒っている。
けれど、慶次さんは楽しそうに立ち上がって部屋を飛び出して行ってしまった。
…さみしい。
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