君がための愛を!
我が物とも思う
堂々と、人垣など目に入らぬようにその人は進む。
私は必死にその背を目指して歩き続けて、見失いそうになる度にその人は歩みを遅めてくれて。私はなんとかはぐれずに、舗装された道を歩んで行った。
***
しばらくして、人の姿が見えなくなった。
どこかの屋敷の塀に沿って歩くと、やっと大きな門の前に着いた。
「…、はぁ」
こんなに歩いたのは久しぶりで思わず息が荒くなる。
「小童、よくぞ我が背を見失わずに此処へ至った」
「…」
どこか誇らしく笑みを浮かべるその人は、乱暴に私の頭を撫でつけてくる。けれど、私は汚い。
もうずっと風呂にも入ってないし、明らかにこの人は金持ちだし、なんだかもう情けなくて。
これからなにをされるのか、
でも、あそこで死んだように生きるよりも。
この人について、いきたかったんだ。
「褒美を与えようぞ」
「…?」
ポカンと見上げていると、目の前の門が開いて秘書らしき女性が走ってきた。
「お帰りなさい、上総介様!よくぞご無事で…!お戻りになるなら馬車をお出ししましたのに、」
「要らぬ、」
ばっさりと言い切った。秘書の人もなんだか寂しげに「出過ぎた真似を致しました」と頭を下げて―――私を見た。
「…っぁ、」
秘書の人は、とても美しい女性で。私を見て驚いた後、妖艶な笑みを浮かべて私の手をひいた。
「そう、あなたもあの人に惹かれて来たのね?…それにしても酷い身なりだわ、誰か人を呼んですぐにお召し替えを」
「ぅ、あ」
そのまま屋敷の敷地へと連れて行かれると思い、私はとっさにあの男の人の手を掴み取った。
「…!」
「な、何をしているのあなた!申し訳有りません上総介様、今すぐ手を」
「…構わぬ」
焦ったように私を叱る秘書の人の手を拒み、私はまた上総介様と呼ばれる人を見上げた。
逆光で表情は読めないが、やはり口元はきつく結ばれている。
時々、凶悪に見える笑みを浮かべて。
私は数ある織田邸のひとつに連れて行かれた。
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