君がための愛を!
この世をば
わたしは、気が付いたら手を引かれていた。
***
昔の事はあんまり覚えていないが、とても辛かった気がする。
食べ物もろくに食べてなくて、毎日をなんとか生きて行くのに精一杯だったのだ。
けど、いつしか生きる気力もなくなって、わたしは道端に倒れていたのだろう。
似たような境遇の子供はいくらでも居たから、わたしもその中のひとりだったのだろう。
流れる人の列からは、憐れみやら蔑みやらの視線が寄越された。
無関心な人の渦の中で、溺れていくような錯覚に陥った。
その時、一人の男がわたしを見た。
「この世を恨みやるか」
地を這うような声に、目を開いてその男を見上げた。
「―――ぁ」
答えようとして、気が付いた。
わたし、喋った事が無かった。
「己が言葉すら出ぬか」
呆れたような、怒ったような…男は感情が含まれているやら分からない声を上げた。
すっ、と手が差し出された。
「なれば、選べ小童」
「―――?」
「現を捨て、無へと帰するか。無様なれど息づき、この世を知り得るか」
わたしには、難しい言葉で。よく分からなかったけれど。
男の人の目が、ギラギラとしていて。怖いけど、
わたしは何故か、その手を握った。
「………良かろう、来い」
男は、不敵にニヤリと笑った。
後に、わたしは知ることになる。
彼こそが、この小さな国を牛耳る支配者。
織田カンパニーの会長だということに。
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