君がための愛を!
すずろなり
曲がり角に隠れるように、進む進む。何故ならもう少しで鉢合わせしてしまうから。
部屋に居ろ、と織田社長にたしなめられたけど好奇心が疼く。
はじめて、お客さんが来た。
◇◆◇◆◇
浅井さん達は、何日か前に帰ってしまったので屋敷はなんだか寂しかった。でも今日は二人もお客さんがやって来た。
私は嬉しくて、どきどきとしていたのだけど。
屋敷のひとたちは、なんだか違うどきどきみたいだった。
まつさんや、利家さんはなんだか難しい顔でそのお客様を出迎えていた。最初、まつさん達は嬉しそうな顔をしていたのに。どうしてだろう。
「……なれば、もはや慶次を友とは呼んで下さらぬのですね」
落胆したような、悲しそうなまつさんを支えるように利家さんが側で二人を見つめていた。
大きな人と、細くて綺麗な人がまつさんをいじめたんだと腹を立てた私は謝ってもらいたくて、こうして追い掛けっこをしていた。
◇◆◇◆◇
「…はっ、…はっ」
どうしてか、待ち伏せしても此方にやってこない。
作戦を変更して、後ろから突撃する事にした私はぱたぱたと屋敷の中を遠回りして、彼らの背後へと周り……
「させないよ」
「…っ!?」
曲がり角を曲がった私は、細くて綺麗な人と鉢合わせしてしまった。すると向こうも驚いたのか目を見開いて「こんな子が」と口を動かした。
「どうした、半兵衛」
「どうという事はないよ秀吉。…さて、お嬢さん?僕たちになんの用かな?僕たちも暇じゃないんだけど」
大きな、山のような人が私を見下している。細くて綺麗な人は、表情こそ笑っているけれど目は冷めていて氷のようだ。
がくがく、と足が奮えて言葉が出なくなる。
「……っ、は」
「…そう、脅えているのかな?いい判断だね、子供にしては」
誉められたような響きに嬉しくなるけれど、事実どうしょうもなくて私は歯を食いしばって耐えた。まつさん達に悲しい顔をさせた人たち。謝って貰わないと。
「無知な君に教えてあげるよ、織田財閥は確かに強大な力を持ってるよね…でもそれは、人を消費するように扱って利益を得て居るに過ぎないんだ。
社会は人こそが作り出す。そこに人望も報酬もない彼のやり方ではいつか破滅が来る…」
「止めよ、半兵衛」
地を這うような、重みのある声に細い人の言葉が途切れた。
私もやっと息ができる。
「織田の幼い童に、知を与えてなんとする」
「しかし秀吉、彼女は聡いよ?織田の養女に召しかかえられる位だからね。…そうだ、名前を聞いておこうかな」
くすくすと妖艶に笑う、その人は私の目を見ることで心を縛る術でも使えるのか、私は口を開いてしまった。
「…トオリ」
「トオリ?…なるほどね織田社長が付けた名前、か…」
思案するように、口を噤んだ綺麗な人を見上げていると私の後ろからぱたぱたと元気な足音が聞こえた。
「遠梨っ!こんなとこに居たぁっ!……そいつらは信長様の敵だから、離れろっ!」
「…らん、まる?」
ぐい、と強く腕を掴まれて引きずらていく私を。二人のひとたちはずっと見ていた。
◇◆◇◆◇
「…ねぇ秀吉、いい事を考えついたよ」
「なんだ半兵衛、楽しそうにして」
「ああ、楽しいよ秀吉。どうか僕に任せてくれないかな?きっと……」
君を、日の本一の社長にしてみせるからね。
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