君がための愛を!
ゆきゆきて
幾ヶ月が流れた頃。
秋が深まった道を、蘭丸くんと一緒に『明智さん』の散歩をする。
「なぁ遠梨、お前政治は分かるか?」
「…う、わからない…」
だよなぁ、と蘭丸君は『明智さん』のリードを手繰り寄せた。首輪のついた『明智さん』がふらふらしていたので、道に戻したんだろう。
…よくわからないけど、突っ込んだら負けなんだって。
慶次さんが言ってた。
「蘭丸にもよく分からないけど……利家が言ってた。信長様の事業がこのままじゃ潰される、って…信長様の邪魔をする奴なんか蘭丸がやっつけてやるのに!」
ギリギリと、歯を食いしばって蘭丸くんは苛立ったように歩いて行ってしまう。
歩幅の関係か、置いて行かれてしまう私はなんとか見失わないようにと走って、たのに。
見失ってしまった。
◇◇◇◇◇
絶望的だった。
「…っう、らん、まる…!うぅ…!」
街中を1人歩く、周りはもう暗くなってきていて。街行く人は和洋折衷の見た事もない人たち。外人さんのお国の真似をした建物のせいで、余計孤独感に襲われて泣き出しそうになる。
ああ、
忘れてた。
私は、この人混みに押し潰されそうだったんだ。今思えば口減らしというか、確かそんな理由で私は捨てられたのだ。
「……お、だ…しゃちょ…」
どこに行けば、
「…お、とうさ…」
会える、の?
「おかあ、さ…ん…!」
「遠梨っ!」
「!!」
後ろから、呼ばれて。
返事をしようと口を開いたけれど、出るのは嗚咽ばかりで。滲んだ景色の中で、慶次さんが安堵した表情で私を抱き上げていた。
「良かった…!本当に良かった…!!」
「けい、じ……!怖い、ひとり、私、」
混乱する私を落ち着かせるように、慶次さんは私を抱きしめて微笑んだ。
「大丈夫、ちゃんと見つけたよ。ひとりにゃしないよ!」
暗い、暗い街の中で。
冷たい、冷たい人の中で。
すくい上げられた私は、慶次さんを見下ろした。
また、救われた。
「さ、帰るよ?お嬢さん!」
◇◇◇◇◇
家に帰った私達を、目を真っ赤にした蘭丸くんが出迎えてくれた。
素っ気ない態度だったけれど、きっと心配してくれたのだろう。
まつさんや、利家さん。
濃姫さんも探しててくれたみたいで、私を見て安堵したような表情を浮かべていた。
そういえば、犬小屋の明智さんも居なかったけれど。
疲れた私には、そんな事を考える余裕もなかった。
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