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君がための愛を!
身を焦がす


びくびくしている私を見つけて、その男の人は更に凄い剣幕で私を睨みつけた。

「まさか、またどこの馬の骨とも分からぬものを引き入れたのですか兄上っ!?それでは他に示しがつかぬ上に、織田の名を汚す事になると…」

「その口を閉じよ、浅井の小童…」

「何を申されるか兄上!浅井と織田が業務提携を結んだ今!織田の恥は浅井の恥!つまり、悪だっ」


ばしん、と机を叩いて豪語する彼を。織田社長は冷めた目で眺めている。
呆けていた濃姫さんが、慌てて立ち上がって「上総ノ介様の御前で、無礼は許しません!」と内股に隠していららしい短銃を抜いたが、それにすら男の人は激高した。

「お、女がそのように裾を捲り上げるな!悪だ!それに私は、その織田社長の義弟だ!兄の愚行を正す事こそが正義!故に私の前に立ちはだかるのは全て悪だ!」


そう言って、私の方へと歩み寄る。あぁどうして。

怖い、

怖い、



「……辞めなよ、浅井さん」

「…っ、けい…じ、」


すっ、と私を浅井さんから隠すように。慶次さんが間に入ってくれた。

見えなくなっても、浅井さんの声がする。

「退け、使用人風情がっ!その子供は知らんのだ…!織田社長がどのようにして、こんな贅沢三昧できるのか、全ては労働者の!血と汗と涙の結晶だ!だというのに、みすみすそれを苦労も知らぬ子供が享受できると、」

「できるさ。なんたってこのお嬢さんは、織田社長の『娘』なんだからさ!」

慶次さんの一言で、浅井さんの言葉が詰まった。


「彼女も、織田の一員なんだよ。だから血も涙も食らえる。知らないのは子供だからさ。あんただって、全てを知って米や乳を食って成長した訳じゃないだろ!」

「ぐっ…しかし、」





「…全部、全部…市のせいなの…」


浅井さんが開いたままだった扉に、もたれかかるように。とても綺麗で儚い美女が佇んでいた。
ふらり、としたその体を支えるように浅井さんが歩み寄った。

「市が…会いに行こうだなんて、言わなければ……兄さまの新しい『娘』に会いに行こう、なんて」

「自分を責めるな!市!」

「…お願い、長政さま…怒らないで……全部、市のせいだから…」


ぐったりとしたお市さんを、長政さんがしっかり支えて渇を入れている。なんなんだろう…。

慶次さんの背中に隠れたまま、私は浅井さん達を覗き見た。すると、頭の上から慶次さんの抑え目の声が降ってきた。


「…大丈夫かい、遠梨ちゃん?」

「…ん、け…いじ、」


あれ、私。


名前、呼べ…た…?


「…っ!嬉しいな、もう覚えてくれたんだね」


当たり前だ、みんな名前はすぐ覚えた。

でも、名前を呼べたのは。
あなたが、初めて。




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あきゅろす。
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