朔の夜に咲く
1
暗闇に、目が慣れてきた。
このタイミングで慣れなくても良いのに。見たくないのに。
「ひっ、と…」
「あいにくと、jokeじゃねぇぜ?咲耶…」
その鋭い目に宿る、欲情の光を私は『見たくなかった』。…筆頭ならきっと、『抗える』と思ったのに。なのに、
ポロポロと、両目から流れ出した涙を。赤い舌を出して、彼はまるで飴を舐めるみたいにすくい上げた。
ダメ。
「おかしいです、筆頭…!よく見て下さい、マジ平凡ですよ私どこにでも居ますよモブキャラよろしく同じセリフしか吐きませんよ!『武器は装備しないと意味がないよ!』」
「その手には乗らねぇ」
「うっ」
心の中が読まれてる。
こうやって、雰囲気ぶち壊せばフラグも一緒にぶち折れる。
けれど、ひとたび筆頭のその目を見れば。
蛇に睨まれた蛙みたいに、身動き出来なくなる。
「だめ!絶対ダメ…!」
流されてはいけない。
拒むように、固く目を閉じる。
がり、とふいに痛みが私を襲った。反射的に目を開くと、筆頭が私の小指に歯を立てていた。慶次と結んだ、小指。
「筆頭、やめ」
「気に入らねぇんだよ」
やだ、その目。怖い。
筆頭は、自嘲するように笑った。
「他の男に媚び売って、楽しいか?」
「ちが、」
「それとも、知っててそんな事するのか」
何を、なんて聞いたら八つ裂きにされる自信があります!いやぁああ!
また、涙が流れていく。
「Ha、泣いていいぜ?」
――そのほうが、ヤりがいがある。
何故にカタカナ表記ぃいい!
「わか、んないです…!」
勇気を振り絞って、咲耶は叫んだ。
「い、いじめかっこわるい…!なんで急に怒って、そんな事すっ」
「…分からねぇか」
筆頭の表情は、やはり闇の中で見えにくい。でも、傷付けてしまった気がした。罪悪感にじくりと胸が痛む。
その、綺麗な親指が。
唇をなぞる。
どくり、と胸が破裂しそうだ。
悲しげに、笑んだ筆頭は。
「…本当に、分からねぇか…?」
「…っ」
音もなく、唇を重ねてきた。
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